ジョジョの奇妙な冒険 ヴェネチア聖地巡礼の旅(2部・5部・岸部露伴は動かない)
「イギリスへ行くまえに、これ読んでください」と友人が貸してくれたジョジョの奇妙な冒険。あっという間に6部まで全巻読破してしまいました。
さて11月、グルメ仲間数名と北イタリアを横断しつつレストランを巡る旅をしました。今回はその旅程にヴェネチアがあったので「ジョジョの聖地じゃん」とせっかくだから巡礼してみたレポです。見出しに巻数を記載しますので、コミックスを開きつつどうぞ。ただしネタバレ注意。
※これ以降、引用文献の出典はすべて『ジョジョの奇妙な冒険』から
波紋教師リサリサ(8巻)
ジョジョとイタリアといえば、真っ先に5部「黄金の風」が思い浮かぶはず。ですが実は2部「戦闘潮流」がヴェネチア初シーン。ジョセフ・ジョースターが師匠となるリサリサへ会いにきます。
ジョセフ:ぬあんだァ~~~~~!このヴェネチアって所は観光都市じゃねえのか?
修行するっていうから おれは てっきり 山奥かどこかに こもるのかと思いきや…こんなところに波紋の「師匠」なんかいるのか――ッ
ゴンドラを頼み、リサリサのところへ向かうジョジョ一行。市内はゴンドラ以外にヴァポレットという水上バスがあり、普通の人はこっちを使います。ゴンドラは観光で風情を味わいたい方向けに出ており、40分で80ユーロとかなり高いからです。さすが金持ち、移動手段がセレブだった。
ジョジョがセレブなゴンドラを選ばなかったら、船頭に扮していたリサリサにも出会えなかったので予定調和。
リサリサ:波紋で水をはじき 水面に立つことぐらいは できるのか…………
なお、この後ジョセフが修行した「エア・サプレーナ島」は聖地巡礼した先人によると実在しないようです。
せっかくだからジョセフ初登場のリアルト橋に登ります。
オシャンな外側と比べて、中はショッピングモールのようになっておりかなり騒がしいです。一部工事中。
さて、リアルト橋が有名なのは橋の上から見える景色。
絵画のように美しいです。これが撮影できる場は激混み。スリもいるようなので、撮影する際はチームで交代制にして互いのカバンを見張るべし。
リサリサ様へ絡むスリの男(8巻)
同じ8巻で、リサリサがカフェにいると男がナンパを装いエイジャの赤石をかすめ取ろうとします。その舞台となったサンマルコ広場がこちら。ジョセフが絡んできたスリにからしをてんこ盛りにしていました。
一見何でもない広場かのようですが、
めちゃくちゃデカいです。
リサリサ:気が付いたようね…そう……これが「エイジャの赤石」!!
こちらが聖堂の拡大図。ディテールまで極端に美しい。中世に生まれてこんなの見たら、そりゃキリストを信じますわ。
この広場は昼間になるとハトと観光客でごった返してまともに撮影できないので、朝7時ごろに撮影するのがおススメ。というのも、空いているこの広場からはとんでもないものが見えるからです。
この広場から海方面へ一直線に見えるのは……ジョジョ5部でブチャラティがボスと戦ったサン・ジョルジョ・マジョーレ教会!
2部と5部の舞台は、かなり近いことがわかります。徒歩と水上バスを含めて20分くらいの距離。ここでは、実際に対岸から360°回転して映像を撮影してみました。
この日は曇っていたので、5部の撮影はまた後日に回しました。
ギアッチョ with ホワイト・アルバムとの決戦(55巻)
話は5部へ移り、ジョルノ・ジョバァーナの世代へ。ジョルノはギャング組織で成り上がるため、幹部ブチャラティと共にボスの娘・トリッシュを守ることに。ところがヴェネチアへ向かう路上で暗殺組織に襲われます。
ここでヴェネツィアをジョジョ目的で訪れるなら、外せない台詞がこちら。
ギアッチョ:フランスの「パリ」ってよォ……英語では「パリス(PARIS)」っていうんだが、みんなはフランス語どおり「パリ」って発音して呼ぶ。
でも「ヴェネツィア」はみんな「ベニス」って英語で呼ぶんだよォ~~~。「ベニスの商人」とか「ベニスに死す」とかよォーー。なんで「ヴェネツィアに死す」ってタイトルじゃあねえーんだよォオオォオオオーーッ。
というわけで、ありとあらゆるジョジョの聖地巡礼ブログは「ヴェネツィア」で統一されています。愛を感じる。
ギアッチョ戦の場所を訪れるためには空港から楽な水上バスでの移動を選ばず、わざわざバスで不便な乗り継ぎをする必要があります。よほどジョジョ好きでない限り、このルートを選ぶことはオススメしません。撮影してみましたが、ご覧の通りただの道路です。
この後ライオン像を破壊してDISCをゲットするシーンですが、全く同じライオン像は実在しないとのこと。しかし翼の生えたライオンはヴェネツィアの守護聖人である聖マルコの象徴なため、そこかしこで見ることができます。
たとえばサン・マルコ広場付近にあるこの像とか。
ブチャラティ vs ボス戦(56巻)
ブチャラティがボスの真意を知ってしまい、戦いの決断を下すサン・ジョルジョ・マジョーレ教会。今回の旅のハイライトです!
上陸だー!!!
正面から確認しただけでは「ボス、どっからブチャラティが来るって見えてたんだ?」と疑問に思いますが、裏側に尖塔があってそこから360°展望できることを確認。尖塔へは教会内部からしか行けないようなので早速足を進めます。
こちらが教会内部。ブチャラティの戦闘を思い出すと、胸が締め付けられます。ほの暗い屋内は、思いのほか人がいません。ジョジョファン以外はわざわざこの教会のために訪れないのでしょうか。
ふと、前方に光る物体を見つけました。
手のオブジェです。こちら、アート作品で2016年末までかざる予定とのことです。ジョジョ読者には傷ついたトリッシュの手にしか見えない……。
ナランチャ:トリッシュは……信じる人に見捨てられた………オレも昔……(中略)ブチャラティィィィィィィィィィ 行くよッ! オレも行くッ! 行くんだよォ---ッ!
こちらは教会の奥にある、ブチャラティがスティッキィ・フィンガーズで辛くも逃げ延びたと思われる部屋。
偶然あったこの像は、悲劇を嘆いているようにすら見えます。マンガでは地下から1階へ移動したけれど、本物の教会には地下階がないか非公開です。
このあと、さらに建物奥の尖塔をエレベーターで昇ります。
ボスが見ていた景色、それは
黄金の風……!
確かに感じる、黄金の風。「逆光は勝利」って鳥坂先輩がおっしゃるだけありました。(※別の漫画ネタです)サン・ジョルジョ・マジョーレ教会へはぜひ日暮れの1時間前にお越しください。May the Golden Wind be with You.
ところで、この旅でとんでもないことに気付きました。ヴェネツィアの海は花京院を思い起こさせるエメラルド色をしています。ジョジョのカラー版を読み返すと、この色が完璧に再現されているのです。
こちらがさまざまな海とジョジョのカラー版を比較した画像。カラー版は荒木飛呂彦先生が塗っていないにもかかわらずこの再現度。驚愕です。もちろん時刻や天気で海の色は変わりますが、ここはロマンで押し通させてくれ。
岸部露伴は動かない(番外編)
さて、ジョジョ本編以外で最後に訪れたいのが、「岸部露伴は動かない」に登場した懺悔室。こちらの舞台となった「サンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ教会」です。
作中で岸部露伴が『禁止なのに教会で写真撮りました』って告白でもしようと考えているとおり内部が撮影できません。が、みなさんガン無視で撮影していました。
内部で気になったのが、懺悔室の構造。実際の漫画と全然違う形をしています。そもそも「岸部露伴は動かない」の懺悔室だと、格子が大きすぎて懺悔してる人の顔が見えちゃうじゃないのとか、思い返せばツッコミどころがあります。あれは荒木先生のオリジナルだったわけですね。
懺悔室の周りは教会に貢献した人のお墓が壁や地面に埋め込まれており、確かにいつ亡霊が出てもおかしくなさそうな雰囲気でした。
こちらが教会の向かい側。いちいち街並みが絶景になるのがヴェネツィアの怖いところです。
これから旅行される方へ
ここまで、ヴェネツィア・ジョジョの奇妙な冒険聖地巡礼の旅でした。ここからは実際に旅行される方向けの情報です。
まずヴェネツィアの宿は全体的に高いです。聖地巡礼のロケーションから考えるとベストなのはホテル・ダニエリ(リンク先音量注意)ですがあまりに高いのでジョースター一族と同じくらい裕福な方向け。
ヴェネツィア本島でもサンタ・ルチア駅付近なら安く抑えられます。上述のレアルト橋付近も安いのですが、ちょっと小道に入ると立ちションが多く、清潔さの観点から個人的にはオススメできません。
そしてイタリア全般のホテルに言えますが、なぜか歯ブラシがありません。高級ホテルへ泊まられる方も歯ブラシと歯磨き粉だけはお忘れなきよう。
交通手段はヴァポレットと呼ばれる水上バス(船)がかなりの頻度で走っているためまず困りません。〇〇時間有効券を買えばSuicaと同じくタッチ&ゴーですが、かなり費用がお高いです。観光地なので堪えてください。30歳未満は割引があるそうです。
ヴェネツィアの食事ですが、観光地の宿命かイタリアにしては珍しくマズめです。現地人に話しかけて教えてもらったイチオシレストランでも、ちょっと微妙な感じ。もしグルメ旅行を期待されるのであれば近隣都市・ボローニャへどうぞ。ボロネーゼパスタや、モルタデッラという大きいソーセージが大変美味しいです。
とはいえジョジョ読者なら、作中で勧められたイカスミパスタは食べたいはず……。一番信頼できそうな無料の情報ソースはGoogle mapの口コミです。そこで評価がいいところへどうぞ。私はOsteria Oliva Neraへ行きましたが、ここのイカスミも悪くなかったです。
また、朝7時からサン・マルコ広場を撮影するには相当早めに朝食をとる必要があります。唯一近辺で開いていたのがAl Verde Coffee and Bar。カプチーノとクロワッサンで3ユーロと大変お得ですが、愛想は悪いです。人件費の分しかスマイルはもらえないので、そこは仕方ない。ちなみにイカスミはイタリア語で sepia(セピア)です。ってことはセピア色の風景って、イカスミ色だったんかーい!
イカスミのスパゲッティは Spaghetti al nero di seppiaで通じます。スパゲッティ・アル・ネッロ・ディ・セッピア。
もっとグルメに気合を入れたい方へは、イタリア発のレビュー本『ガンベロ・ロッソ』の購入をおすすめします(イタリア語ですので、Google翻訳でカメラかざしながらどうぞ)
それでは、ジョジョの奇妙な冒険、聖地巡礼ヴェネツィアのレポを終わります。アリーヴェデルチ!
電通に入るようなエリート層は「降りたら死ぬ」ゲームを生きている
電通で入社わずか1年目の女性が過労死させられた事件。亡くなったのは共通の知人が何人もいる女性だった。今さら強制調査をしたって、彼女は返ってこない。
なぜ就活で電通が人気なのか
就活における「電通」の立ち位置は間違いなくトップである。内定者の数割はコネ入社で枠がそもそも埋まっているから、一般枠で内定するのは至難のわざ。ここでいうコネとはスポンサー企業の御曹司レベルを指すので、生まれ直さないと手に入らない。東大でも内定が難しいと言われるゆえんだ。
その一方で電通はハードな接待や残業、体育会系の社風で学生にも知られている。が、私が電通社員から実際に聞いた接待の様子を話しても「本当にそんなことあるんですか」と信じられない学生の方が多い。個人情報がバレてしまうのでフェイクを混ぜるが「アナルに栄養ドリンクの瓶を突っ込むくらいは女性でもやらされる」(20代、元電通社員)とか。もっとも、この辺はクライアント次第かもしれない。私がクライアント企業側だったときはこういった体罰的宴会芸はなかったが、コスプレで踊る・酒瓶一気飲みなど接待は文化祭のノリだった。
残業時間も具体的な数値は伏せる。だから学生にとって「毎日4時まで眠れない会社がある」と言われてもいまいち信じられない。
やっぱ話題の広告会社、新卒採用のFBのページにあった「激務なんですか?」という質問に「あなた次第」って答えてるのはスルメイカのようにヤバさがしみだしてる pic.twitter.com/qPxpyIH5Pz
— Shota SAITO (@ShotaSAITO) 2016年10月8日
ではなぜトップ学生が電通のような会社へ入社した後、現実とのギャップへ気付いても辞められないのか。そこには2つの理由がある。
成功体験に裏打ちされた将来は明るく見える
まず、自分たちはこれまでハードワークをこなしてきた自負があること。東大に入るような学生は、1日10時間の勉強をものともしない努力家である。東大は入学後も「進振り」といって卒業学部を選ぶ選抜があるから遊びほうけてはいられない。
そしてトップ企業を狙いたければ体育会系部活動の経歴が必要だ。企業によっては「東京大学の〇〇部」と部活単位で採用枠が用意されるくらいである。もし所属していないなら「理不尽なことにも耐えられる」「体力がある」エピソードを別途用意せねばならない。なにせこの2つがないと入社後に潰れてしまう。
さらに広告代理店であれば創造性が求められる。例えば電通出身者であるはあちゅうさんは、学生時代に企業からスポンサーを自力で勝ち取ってタダで世界一周した。全国約50万人と言われる大学生でもこんな取り組みを思いつき、さらに実行できる人はそういないだろう。
何よりクリエイティブなのに企業からスポンサーを得るという社会性が感じられるのが高評価だったんだろうな、と数社で採用活動に携わってから思った。単に面白いだけの社会性が無い人は入社してもセクハラ・パワハラを生き抜けないからだ。
賢さ・体力・創造性――1つもっているだけで「すごい」と思われる要素を3つ揃えて初めて内定できるのが電通である。それまでの果てしない努力から学生は成功体験をいくつも持っている。誰しもサイコロを振って10回6が出たら、11回目も6が出ると思うんじゃないだろうか。だからそれ以降、自分が会社で鬱になる展開は想像できない。
「エリート街道を降りたら負け」というトップ層の価値観
さらに、ここまで成功してきた人は死にもの狂いで頑張ってきたからこそ「ゲームを降りる」ことができない。これまで10倍、100倍の難関を潜り抜けたのだ。今さら普通に過ごしてきた人たちのような暮らしを選ぶことは、努力をフイにするのと同じ。降りることは社会的な死を意味する。
もちろん毎年、トップ企業へ内定した学生も一定数が退職する。その理由はさまざまで、決してゲームの勝ち負けで単純に判断できるようなものではない。けれども残った側から見れば、彼らが敗者に見えることも少なくない。かつて私は電通と同じくらい激務の企業にいたが、退職後に競合他社の知人とこんな会話をしたことがある。
私: 離職率も高い中でサバイブしてるAちゃんはすごいと思うよ。女性でもバンバン海外転勤あるし、しかも結婚適齢期だから難しい人も多い中で。そろそろ昇進する時期でしょ?
Aちゃん: そんなことないよ、目の前のタスクを一生懸命片づけて気づけばここにいたって感じ。それに、辞めるような人はどうせ生き残れなかった人でしょ。気付いてると思うけど、結局辞めるような人って大したことないし。ほら、〇〇ちゃんやXX君は知ってるでしょ? 確か起業するとか進学するからって言って辞めたけど、結局は成果を出せない人間だから辞めるんだよ。だって辞めずに起業もできるし、休職すればMBAも取れるでしょ。
私: (おいおい、私も業界を辞めた側なのによく目の前でそれ言うな……)なるほどね。たとえば激務だったりうちの業界みたいにパワハラ・セクハラがある業界だと能力関係なく会社が嫌になって辞める人もいると思うんだけど、それについてはどう思う?
Aちゃん: 一定数はいると思うよ。本当に優秀でも辞める人。でも優秀さって単なるビジネススキルじゃなくて、女性であることを売りにできるとか、そこも使ってのし上がることを指すじゃない。それができない時点で二流だし、そんなことに絶望するなら何で弊社に来たの? って思う。
私: (絶句)……その生き方が好きならいいと思うけど、でもそれって楽しいのかな……幸せなのかな。
Aちゃん: 幸せは人によるけど……少なくとも私は幸せだよ。裁量権も大きいから若手なのにどんどん任せてもらえるし。誰でも知ってる会社で頑張っているっていう名声も手に入るし。それって、やっぱり私たちみたいに努力して勝ち抜いた人の特権だと思う。
今回の過労死でも「同じ状況なら自分も死ぬかもしれない」と教えてくれた人が何人もいた。自分たちも同じように生きるか死ぬかのゲームを走っている。辞めた人を表だって負け犬と呼ぶ人間は少ないだろうが、裏でどう思われるかは判っている。
逆に、鬱だろうが左遷コースだろうが、外から見ればその人は変わらずエリートだ。合コンでちやほやしてもらえる、周りから「あの〇〇に勤めてる人だよ」と言ってもらえる。両親から誇りに思われる。恩師が、先輩が……。ゲームから降りると、これまで応援してくれた彼らを裏切ることになるんじゃないか。そんな罪悪感もよぎる。
私も自分が親族の介護を理由に新卒企業を退職するとき、この会社に入るまで助けてくれた人の顔が次々とよぎった。優しかった最初の上司に申し訳なく思った。それでもこの会社の働き方はおかしい、毎日終電で帰ってから家で仕事するなんて。
きっと労働環境だけでも変えられる。そう思って労働基準局へ相談した。
正義を全うしたいなら訴えてもいいですけど……労力に見合う賠償も得られないでしょうから、おすすめしません。
あなたが訴えることで前職で仲のいい方へ報復人事があるかもしれません。発覚すれば是正できますが、たいていはグレーゾーンの左遷をされます……。それに、スポンサー企業だからマスメディアも取り上げないでしょう。それでもやる覚悟があったらご協力できます。
受話器を置いた。クソ野郎で結構。私は何もしなかった。
幸せな電通社員は上司に守られている
もちろん、幸せに電通で働いている方も大勢いる。ある30代の電通社員から聞いたのは「クライアント企業の接待は理不尽の塊だけど、上司や同僚が守ってくれる」という言葉だった。
電通社員はクライアントから理不尽な目に遭い続ける。私が電通社員へかつてヒアリングしたエピソードには「今すぐXXへ来いと言われ東京から深夜タクシーに飛び乗った」「道端で脱げと言われて脱いだら留置場へ入った。すぐ出してもらえたのでそのまま出社した」なんてのがある。
上記のアナルといいエクストリームなパワハラ・セクハラは一部のクライアントに限られるだろうが、「明日までにこの映像を修正して納品してください。寝なければできますよね。この企画が成功したら10億単位で追加予算出ますから」なんて目の前に人参をぶら下げた地獄労働はよく聞くし、私も依頼したことがある。その後、同じように低予算で何度もギリギリの納期で依頼せざるを得なかったことも。
ムチャクチャな要求に答えられる馬力こそ電通が他者に勝る最大の理由であり、一部のゴリゴリ日系企業は大手でもそういう接待を要求する。電通がクライアントからのパワハラ・セクハラを拒絶すれば戦略立案に優れる博報堂に追いつかれてしまうかもしれない。
だから外部からのストレスは避けられないのだが、そこで社員を守るのが上司や同僚だ。「ほんと、あの社長最低だな!」と社内で一緒に分かち合えるから明日も戦えるのだ。過労死した女性のツイッター履歴には、上司が守るどころかパワハラ・セクハラの加害者になっていたことがわかる。
※ご本人のツイートより。故人となったのちに鍵がかけられたため匿名化した。
守ってくれるべき周囲の人間も加害者だった。だからこそ彼女も最後の一歩を進んでしまったのかもしれない。
どんな努力も「幸せのため」にある
確かに、トップ大学へ進学すること、就職することはエリート街道の条件だ。そこには並みならぬ努力がある。だが全ての努力は自分が幸せになるためにある。真面目に頑張れる人ほど、周りから「頑張ったね」と言ってもらうことで幸せを感じがちだ。しかし周囲が反対してでも得たい幸せを見つけられれば、ブラック企業に使い倒されることもない。あなたの退職を笑うような人間とは別の生き方を選べる。
「人が笑ってもこの道を選ぶ私を 応援してくれる人だけ友と呼ぼう」といった主旨で宇多田ヒカルが歌っていた。世間が求めるゲームに乗っかるのは楽だ。けれどそこにもし自分の幸せがないなら、自分の幸せを認めてくれる人だけを友達と呼べばいい。馬鹿にする人から去っていい。あなたの人生では、あなたが世界で1番大切な人だから。
この記事が消えないことを願う。
追記:
アナルに栄養ドリンクの瓶~のくだりは、前述のとおりフェイクが入っています。が、下腹部に何を突っ込まされたところで異常事態なのは間違いありません。それは仕事ではなく拷問です。
この記事が公になってから、似たような事例の情報がありました。電通だけではない、他業種でも似た接待があるとのツイートも。
電通に入るようなエリート層は「降りたら死ぬ」ゲームを生きている - トイアンナのぐだぐだ https://t.co/YKzgZR2iZj 私が中の人から聞いた話だと、女性の頭の上にチンターマニをのっけて「ちょんまげ」とか、女性だけどSMショーに連れていかれたとか聞いたことある…
— 🌱エフィ🐣 (@efi_totto2008) 2016年10月17日
そえば前の上司に接待で酒瓶一気飲みした話されたなあ。そんなので仕事取ってくる発想がナンセンスだと心の中で思ったけど。/電通に入るようなエリート層は「降りたら死ぬ」ゲームを生きている - トイアンナのぐだぐだ https://t.co/89ddq9Snri
— とも (@_______tomo) 2016年10月15日
これは10年前の話ではなく、2016年です。「私の周りにはなかった」のかもしれませんが、どこかの部署にはあるのです。やりがいや裁量権に踊らされて、不幸な仕事に就く人が少しでも減りますように。
===============
電通で不正が発覚したデジタル部門。亡くなった彼女も近しい部署、もしくは同じ部署だった。そのハードさはクライアントから見ても「ごめん」と思うほどではあったんですよ、というお話。
なぜ警戒している女性すらモラハラ男にひっかかる? 世間が抱くモラハラへの誤解を解く
モラル・ハラスメント、略して「モラハラ」という単語も、よく知られるようになった。だが信じられないほど世間が考えるイメージに現実とのギャップがあり、この溝を埋めねば誰が次の被害者になってもおかしくない。この文章は、あなたをモラハラの被害者にしないために書いている。
モラハラの定義は全部書くと長くなってしまうので一部抜粋する。
- 罪悪感を持たない。責任を他人に押し付ける。
- 強い者には弱く弱い者には強い。
- 際限もなく非現実的なほど高い欲求を周囲の人にする。
- 他人の不幸は蜜の味。
なんとまあ、並べるとクソサイコパス野郎と区別がつかない。罪悪感を持たず他人へ激しく要求し、責任を他人へ押し付けては慌てふためく他人の不幸を喜ぶ。生きる害悪、空気界におけるダイオキシン。
しかし、現実にこんな人間がいたらどうなるだろうか。たとえば小学校で「俺様の友達になりたかったらテストの答案をすべて俺の名前で提出しろ」と要求して、先生に怒られているのを大笑いするような人間がいたら? 中学を卒業するまでには孤立しているだろう。彼女を作ることや就職なんてままならず、不遇の一生を送るに違いない。
未経験者がイメージする「モラハラ男」はこんな感じである。モラハラについて説明したウェブサイトには最初だけ優しいけれど豹変するなど特徴が記載されているが、被害を受けたことがない人が想像する「最初だけ優しい」は、小さい子へ「飴あげるから」と話しかける誘拐犯のイメージくらいに曖昧だ。
だが、モラハラの加害者を何人も見てきた結果わかったのは、彼らが全面的にいい人である点だった。周囲からの人望も厚い。接客業で常連客を何人も抱えていたり「あの人が言うなら買おう」と言わせる実力があることも少なくない。女性なら「どんな人にも優しくて、まるで女神だ」と言われていたケースもある。とにかく世間からの評価はバツグン。
モラハラをする人には普通の人が見せるような弱みやずるさなどの隙がなく、人間離れしたように感じるかもしれない。だが、それもまたカリスマティックに思われるから批判する人は少ない。「あの人はいい人すぎて怖い」などと言おうものなら「そりゃ、お前に比べたらいい人だろうな」といじられて終わりである。
だから、モラハラは怖いのだ。モラハラの加害者は自分でも無意識に、支配できそうな人を見つける。ターゲットを見つけて恋に落ちると、誰にも負けない情熱的なアプローチをしかけてくる。
「〇〇さんと話してると、生きててよかったって思えるんだ。本当に愛してる」
「少しでも〇〇さんの力になれたらうれしい。僕にできることは少ないかもしれないけど、人に気を遣える繊細さがありながらも芯にある美意識は譲らない。そんな人、あなたくらいしかいない」
「今までこんなに心を開ける人はいなかった」
こんな風に激プッシュされる。なおここまで加害者の原文ママ。
さりとて彼の前評判は最高だから、周囲もモラハラ人間と付き合うのを後押しする。
「これまで気が弱いからって変な男ばっかり寄ってきたけど良かったじゃない」
「彼女がXXさんとか恵まれすぎ。このモテ期を逃すなよ」
などなど、悩んでいる自分が贅沢者のような扱いを受けるだろう。察しがいい人は相手に底知れぬ違和感を抱いて付き合うのを躊躇するが、疑い深い自分が悪いような気がしてくる。だからモラハラ傾向がある人間と付き合うのはむしろ自然な流れだ。
女性からの相談が多いのでここからモラハラ男のケースになるが、付き合ってから少しずつ愛情が重く感じられることが多い。休日の予定を全部質問される、友達と遊んでいても迎えに来られる、今日は1人でいたいと言っても会いに来るetc。
けれどこの段階では友達に相談してもまともに取り合ってもらえない。「いいじゃん愛されてて~、よっぽど大事なんだよ~。ノロケでお腹いっぱいだわ、私も彼氏がいたらなあ」で片づけられるのがせいぜい。友達が悪いのではない。この段階でモラハラと普通のノロケを区別するほうが難しいのだ。
さて、そのうちモラハラに耐えられなくなって女性が抗議する。そうするとこんなセリフが待っている。
- そんなに僕と過ごすのが嫌だなんて知らなかった。いつから僕を裏切るようになったの? 早く前の〇〇に戻ってよ。
- 最初から僕のことはそんなに好きじゃなかったんだ。僕はこんなに好きなのに。毎日デートは車で出迎えたし、ご飯をおごってあげてたじゃん。僕みたいに少し関係に向き合ってくれてもよかったんじゃない。
- 別れたら周りは悲しむんじゃないかな。こんなささいなことで別れるなんて、僕は止めないけど大人としてどうかと思うな。
モラハラ男に多いのは「自分はあなたを止めないけど、大多数は自分に賛成するだろう。だから間違っているのは君なんだ」論である。これに抗うのはしんどい。共通の知人や友人がいたら別れた理由を自分のワガママですと開き直れる人は少ない。愛情が重たいと感じる自分が身勝手なんじゃないか。自分こそもっと彼に尽くすべきだったんじゃないか……こんな風に別れるのを思いとどまって地獄が始まる。
実は、この間にモラハラ男はしれっとあなたの「裏切り」を周囲に相談するのだ。自分はこんなに愛してる、尽くしているのに見返りがないばかりか別れを切り出された。きっと彼女はもう自分を愛していないし、何なら浮気しているかもしれない。普段から誰よりも「いい人」で通っている彼だからこそ、周囲は彼の側につく。どうせ付き合っても別れても、あなたは悪役にならされるのだ。
さらには彼なりの「報復」として浮気されることすらある。浮気が発覚しても、彼はむしろあなたを責めるだろう。「こんなに愛しているのに信じてもらえないから浮気したんだ。浮気自体は悪いことかもしれないけど、君はその前に僕を裏切ったよね?」
いつの間にか彼女は、彼の求める形で愛情を返さなければいけない立場へ追いやられる。周囲にも相談できず、限界に達した人は逃げ出す。周りの人間関係ごと絶縁することもままあるので、友人は最後までモラハラ男の正体に気付かない。
実例では女性が精神的DVを理由にモラハラ男を訴えたにも関わらず、共通の知人は「親権を勝ち取るために嘘の訴えをした」と信じていた。再婚後、2度目の訴訟で再びDVを訴えられたことが広まって「もしかして……」と露呈したのである。
モラハラをしてしまう加害者も不安でいっぱいかもしれない。無限に愛情を注がれないと愛されている自信が持てない。だから相手へ際限ない欲求をしてしまったり、小さな拒絶で自己否定されたように感じて報復に走ってしまう。だがそんな彼を救えるのは彼自身だけだ。
彼女や妻は女神や医者にはなれない。モラハラ男に必要なのは愛より精神療法である。だからもし今、パートナーにその気があるならカウンセリングに誘ってみてほしい。それがだめなら、走って、逃げ出せ。
モラル・ハラスメントの権威であるイルゴイエンヌ氏の書籍。入門にもぴったり。
- 作者: マリー=フランスイルゴイエンヌ,Marie‐France Hirigoyen,高野優
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 1999/12
- メディア: 単行本
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モラハラ人間を笑い飛ばしたいならこちらの本がおススメ。気分が重くならない痛快なモラハラ入門でした。
自著にもモラハラ男と付き合ってしまった場合の距離のおき方をお伝えしました。別れようにも情がうつって別れられない方はこちらをどうぞ。
電通のデジタル広告不正について、クライアントの立場から「ごめんなさい」と言いたい
電通がデジタル広告領域で、契約期間に実際は掲載しなかったのを始めとする不正が発覚した。私はこれまで数社で電通へWeb広告を発注する立場だった。その上で、この問題が発覚したとき冷や汗が流れた。そして電通の担当者さんへ「申し訳ない」と感じている。不正は電通だけが根源ではないと強く感じているからだ。
クライアントは情弱が多い
そもそも、電通はWebに弱い。電通の個人投資家向け情報には、電通の強みとしてテレビ、新聞、雑誌、ラジオが図解されている。Webがこれほどまでに重要になった現在、なぜ掲載されていないか。弱いからである。そんなことはクライアントもわかっているが、広告発注は1社に絞ったほうがコストが安くなる。すでにテレビ広告を電通へ依頼している企業なら、Web広告も一括発注することが多い。
また、マーケティングコンセプトは同じなのにCMは電通・Webは博報堂などと製作先を分散してしまえば全く異なる広告があがってくる。芸能人もイラストも違う広告が媒体別に拡散されてしまえばキャンペーンごとの統一性が失われる。あるいは前例主義で「ずっと電通さんにお世話になってるから」と選ばれる。だからWebに弱いとわかっていても、総合力に強い電通へ依頼することが多い。
そうなると、電通の営業さんがWebに強くないのはこちらも承知の上だ。その上で依頼主がWeb広告を勉強しておけばいいだけの話なのだが、いかんせん依頼側も情弱なことが多い。たとえば私は比較的Web広告の知識があると言われペーペーのころから社内の偉い人へ説明していたが、それは単にWeb広告の基礎用語を知っていたからである。例えば「インプレッションが多い案よりも、コンバージョンを優先しましょう」と言えるくらいで、つまり詳しい人から鼻で笑われるレベルだ。
クライアントにとって何よりも重要なのは実際の売上である。実際の売りにさえ達していれば、ぶっちゃけ掲載期間が多少いじられていようが、想定インプレッション数に達していなかろうが問題ない。
しかしWeb広告は「実際の売上」を証明するデータの蓄積がない。ネット通販ならそのままオンラインで売れるが、クルマなどリアル店舗で購入する商品に関しては顧客の何割がWeb広告経由で訪れるかを正確に測定できない。
対してテレビCMや新聞、雑誌は今までの膨大な統計から、広告の品質に関わらず最低何割が広告から商品を購入するか知っている。しかしWebにはその蓄積がない。にも関わらず、次々と新しいメニューが出てくる。バナー広告でいくら商品が売れるかもわからないのに、やれVRだのネイティブアドだのが登場する。
「効きそう、だけど効能はわからない」という意味で、これらの広告投資は水素水と大差ない。少なくとも、数百万以上を放り込むクライアント目線では、だ。
Webに期待されている売上は少ない
であるにも関わらずなぜ、クライアントがWeb広告への投資を止められないか。それはテレビや新聞など既存メディアの凋落が激しいからである。同じ広告費をテレビへ投下してもじりじりと売上が下がっていく。このままではジリ貧だ。お上から鶴の一声で「これからはネットだ!」と号令がかかり、慌てて取り組む経営企画部も少なくない。
そんな状態で走り出すから正直なところ、Web広告由来の売上を高く見積もれない。「テストプランのつもりで」と稟議を通すことも負いだろう。億単位で予算がぶっ飛ぶテレビCMと比較すると、Webは数百万円から投資できる。数百万なら、CMを1週間減らすだけで十分捻出できるではないか。というわけで電通さん、ちょっと広告の予算配分変えといて――。これが、私が数社にわたって見てきたWeb広告に対する投資の始まりだ。Web広告の多くはリターンをはなから期待されていない。
クライアントが情弱なだけが原因ではない。会社員の大半は会社でメールを使っているだろうし、Google広告を観ている。だがバナー広告をクリックした経験が、これをご覧になっている読者の何割にあるだろうか? バナー広告のクリック率は0.05%前後。効果測定のヒアリング調査でも「バナーをクリックして御社製品を買いましたよ」なんて消費者へはまずお目に掛かれない。テレビや新聞、雑誌ならよくあることなのに。これがまた、Webへの不信を募らせる。
このようにWeb広告は実体験からも成果を期待しづらい。クライアントにとっては「予想外に売れちゃって説明を求められたらWebのお陰だと報告しよう」くらいの存在である。
こういった経緯でクライアントから合計10億円投下されて、うち300万円だけがWebに割かれる。あなたが電通の経営者なら、その300万円にテレビCMと同じ人員を割くだろうか? 割くわけがない。プロフェッショナルを下請けから出向させて、あとはよろしく! が関の山だろう。出世も見えないまま降ってくる大量の処理作業、明らかにテンションの低いクライアント。社員にとって不正も働きたくなる土壌がそこにはある。
だからトヨタの指摘があったと聞いたとき、私は驚かされた。トヨタはどんだけWebへ期待してるんだよと。もしかして上層部から売りが達していない理由を詰められて、咄嗟に「広告の実施状況を今一度確認します」と口走ったから今回の不正が判明したんじゃないの、と。
結果として実際に不正があったので、電通が今回は売上未達の非を全面的に負うことになるだろう。私がトヨタのマーケターなら胸をなでおろすところだ。
だが、もっとフェアに話せばクライアントがWebを知らな過ぎた、あるいは予算を削りすぎてきた面も多いにあるのではないか。「ホームページ作ってバナー広告を貼れば何とかなる。あとはこう……なんか知らないけどSEOだっけ?あれやっといて」くらいの認識しかない企業が多すぎるんじゃないのか。
不正は不正で、現時点でもすでに社員は方々のクライアントとケジメをつけているところだろう。いくら予算不足の部門だろうが、慰謝料も社会的制裁も大いに受けるべきだ。だがその一方で、依頼主としての無学から罪悪感に胸を締め付けられた次第である。
炎上で自殺未遂。SNSや恋愛へ依存して幸せになる道はあるか
SNSのフォロワー数とは、あなたの情報を見ている人数を指す。芸能人などささやかな日常風景をツイートしているだけでフォロワーが大勢つく人間もいる。その一方で無名からスタートし、人気アカウントになる方も多い。
それまで人生で注目されてこなかった後者の人にとって、フォロワー数は承認欲求を満たす道具になる。自分にファンがいる、そのためにもっと注目を浴びられるよう、尊敬されるよう頑張ろう……。
だが、インターネットの承認欲求は副作用も強い。フォロワー数が減ると不安になりやすい。mixiでも「そうしてあなたは去ってゆくのね」と誰がマイミクを外したのかわかるアプリがあった。そんな風に去る人を追いかけ、フォロワー数に一喜一憂し始めると、むしろ不安になることの方が増える。SNS依存の始まりだ。
北条かやさんのしんどさは、他人事ではない
この記事でTwitter炎上からの自殺未遂を語った北条かやさんも、同様にしんどい思いをしていたんじゃないだろうか。
ライターはフォロワー数が報酬へ大きく影響する。「記事の告知をして何名が読んでくれるか」は、原稿料に含まれている。良質な記事を書くTwitterをやっていないライターよりも、フォロワー10万人いる人が重宝されるのだ。
さらに自分の名前で検索する”エゴサーチ”も業務の一環である。記事を発注してくれた企業が、URLをメールで送ってくださるとは限らない。それで閲覧数が減っても困るので、自分で記事公開ツイートを探し共有する。その過程で自分への批判を目にすることも少なくない。
私は外資勤めで鋼のメンタルを得てしまったので、批判で傷つくことはあまりない。面と向かって「詐欺師」「ノーバリュー」「知能検査受けたことある?」と言われ続けた人間としては、知らない人からの罵詈雑言はだいぶマシである。本気で反論したければロジカルに相手を詰められる自信もある。この辺は筋トレをしている人が「いざとなったら上司を殺せる」とメンタルが強くなる心理に近いかもしれない。
だが、たとえばあなたが会社から命ぜられて、毎日自分のアカウント名で検索するならどうだろう。そこに「あいつほんと嫌い。死んでほしい」なんて100件以上書いてあったら、少しは傷つくんじゃないだろうか。ましてやフォロワー数で承認を得ている、SNS依存者にとってそれは大変しんどいだろう。
承認される場所を死守するため戦略的ではない行動もとる
SNSに限らず単一の承認手段へ依存してしまうと、そこを死守したいがあまりに他人を傷つけたり、犠牲にすることもある。ぱぷりこさんの最新刊『妖怪男ウォッチ』では、恋愛で承認されるために女性を犠牲にする例がある。
(恋心の搾取地主は)男としての自信や愛情に飢えているため、「俺はこんなに女から好かれてるんだからすごい。あいつらは俺より社会的には成功しているけど、俺はあいつらよりモテているからすごい」と思おうとします。実はとっくに彼女がいても、キープ&キープ&キープ。
彼らは、自分が悪者になること、ヤリチンと言われること、浮気や二股など一般的に悪いと言われていることをしたがりません。嫌われるリスクを取れるほどの覚悟がないからです。「クリーンな自分」を維持するために制定されるのが、「セックスしてないからセーフ」「自分から付き合ってと言ってないからセーフ」という地主ランドの基本法。「だから俺は悪くない」とセーフティネットを貼る姿は、弱気な独裁者のようです。
出典:ぱぷりこ『妖怪男ウォッチ』pp.079-081
この男性が、女性を傷つけても批判を受け入れられないのは当たり前。彼にはそれ以外の承認を受ける手段がないからだ。キープしている女性が絶対国防圏なのである。
SNSで批判されたから死のうと思い詰めるのもまた、そこ以外に承認される場所がなければ自然だろう。他に行く場所がないのだから、アカウントを消すこともできない。
承認欲求を認めて、依存しまくるという選択
私も含め、ブログを公開して読んでもらおうと思っている人は、承認欲求が並より強いはずだ。沢山の人から愛されようと男性へつい媚びてしまう人も、女性をキープして安心する男性も。
人は何にも依存せず生きることなどできない。だが、依存する矛先を増やすことはできる。例えば私はネット、家族と友人から承認されている。SNSを完全に絶つことはないだろうが、今のアカウントを消してもまた作ればいいやくらいに思えるのはそのためかもしれない。
また、承認欲求の依存先以外でも方向性を増やせば炎上で心が折れたりはしない。
フォロワーが増える快感は脳が与える報酬としての快楽である。そして報酬には以下のグループがあると言われている。
感覚的報酬:生理的欲求に近いものを満たすことで得られる快感
物理的報酬:欲しいものを手に入れる快感
社会的報酬:承認欲求を満たす快感
知性的報酬:知的好奇心を満たす快感
つまり、承認欲求を満たす快感は数多くある報酬の一部に過ぎない。そして社会的報酬が全く得られないストレスは物理的欲求が得られない以上につらいとも言われている。逆に言えばネットや恋人の承認に依存している人は、何か欲しいものを手に入れれば似た快感を得られることとなる。
先ほど挙げた北条かやさんの消費は脂肪吸引など、なんだかんだ承認欲求、それもネットのそれに結びついている。そこで「ネットなんてクソくらえ、私は道端で100人からナンパされてみせる」と別のグループから承認欲求を得たり、好きな買い物をしまくったらスッキリするんじゃなかろうか。
報酬を得られる場所を1つに絞りすぎると、そこがダメになったとき心が折れてしまう。だから依存は、しまくったほうがいい。ありとあらゆる方向へ、少しずつ。
最後に、脳性まひを患いながら小児科医でもある熊谷晋一郎さんの言葉を引用させていただき終わりとしたい。
健常者はさまざまなものに依存できていて、障害者は限られたものにしか依存できていない。依存先を増やして、一つひとつへの依存度を浅くすると、何にも依存してないかのように錯覚できます。“健常者である”というのはまさにそういうことなのです。
出典:自立は、依存先を増やすこと 希望は、絶望を分かち合うこと
「妖怪男」を分類して悪・即・斬している本。 恐ろしいことに全文書下ろしだった。
販促です。笑 恋愛で承認欲求を満たしすぎている方へ、自立できるエクササイズをお届けしています。
自然派ママが好きそうな単語だけ組み合わせて科学的根拠のある記事を書いてみた
自称「自然派ママ」の女性が子供の火傷した手を温めて治そうとし、問題になった。これはホメオパシーという医学的根拠のない治療法らしい。
自然派ママの流れから、こんなツイートも生まれた。
簡単に信じちゃいけないもの一覧
— Enbos (@Enbos) 2016年9月8日
・植物性由来
・自然派
・オーガニック
・ホメオパシー
・免疫療法
・1日◯◯するだけで〜〜
・実質無料
・肉食系/草食系
・女性が女性を評する際の「可愛い」
・ラップで好意を伝えてくる男
・酔っちゃったかも
・今日は大丈夫な日だから
確かにこれらのフレーズにはデマ感がある。だが、言葉のイメージに私たちも踊らされていないだろうか? 怪しい言葉にアレルギー反応を示して、科学的根拠がある記事を見逃していないだろうか。
そこで自然派ママが好みそうなフレーズを駆使して、記事を書いてみることにした。まずは怪しい言葉を募集してみたところ短時間で多数の投稿をいただいた。
ここからは上記の言葉をなるべく埋め込んで作った記事である。
週に2.5時間の運動で脳科学的に認められた健康が手に入る!
運動をするのがダルい、そう思って今日も家でゴロゴロしていませんか?
でもね、人生はYOLO = You only live once、人生は1度きり。今のままの人生で、後悔しないでしょうか。絶対に?
あなたは「ドラスティックに運動しなくては」とハードルを上げすぎているのかもしれません。実は専門家によると、週に2.5時間の運動だけで免疫療法でも認められた自然派ボディが手に入るそう。
1日20分の運動だけで「こんなの初めて!」体験ができるってすごくないですか? オーガニックな酸素を肺へふんだんに取り入れ、実質無料で手に入る肉体美です。
健康な肉体は肉食系女子にこそ必要?
運動ってつまり、男性の筋トレでしょ?と早合点しないでください。シンプルで丁寧な暮らしのためには、継続的な運動が欠かせません。可愛い肉食系女子のナイトライフには体力必須です。筋肉は脂肪と比べて血中アルコール濃度が上がりにくいため、適度な運動で「終電なくなっちゃったかも」と焦る時間まで飲める体に。明日の心配をすることもなくなるでしょう。
筋肉痛は好転反応にすぎない
そしてここだけの話、さらに効果的な運動ライフハックがあるんです。
運動で大切なのは、ズバリ!水をたっぷり取ること。人間の体は半分以上が水でできていますが、運動で汗をかくと水や塩分が不足します。水を飲みすぎると尿意をもよおしますが、ごっそり体の毒素が出ている証拠!ガマンせずにお手洗いでデトックスしてください。
また、急に運動を始めると翌日以降に痛みを感じることがあるかもしれません。これは筋肉痛と言って、運動から生じる好転反応。体力づくりへ繋がるポジティブな兆候ですから安心してください。筋肉痛がある間は、筋肉を回復・肥大させるためにも運動を断捨離しましょう。翌朝体を動かしても痛くなければ「今日は大丈夫な日」というサインです。
運動をした後はクールダウンのために骨盤矯正ストレッチ。シャワーを浴びて落ち着いたら、良質なたんぱく質を摂取することで筋肉を増やします。
マクロビオティックで推薦されている植物性由来のたんぱく質である大豆もオススメです。普通の方は肉・魚を積極的に取りましょう。また酵素ドリンクも飲んでしまえばただのたんぱく質なので、近しい効果を得られます♪♪
自分だけで始められないなら、運動する価値の伝道をしよう
さて、もし自分だけで運動を継続する自信がなければ、誰かと一緒に始めましょう。豪華なホテルのジムなど、気分がアガる場所を選ぶとよいでしょう。側で見ている人がいるだけでもやる気が湧きますから「何もしないからホテルに行こ?」とアポを取るのもありですね。
また、運動を毎日しなくては……と考えるのは挫折のもと。合計で週に2.5時間運動できるなら毎日する必要はありません。「行けたら行く」くらいの気持ちで継続してください♥
私も半信半疑で毎日30分弱の運動を始めてみたのですが、before ➡ afterの1カ月でメキメキ体が引き締まりました。サーキットトレーニングを取り入れたのもあって「食べて痩せる」を実現できています。今では「こう見えて〇〇歳!」と実年齢通りの評価をいただけるようになりました。
筋トレマニアにならなくてもいい
最後にお伝えしたいのですが、運動は新興宗教ではありません。いわゆる筋トレマニアの発言を見るとあまりに運動を人生で優先しているので、怖いと感じるかもしれません。(私の友人にも、筋トレにハマりすぎて彼女とは上手く行ってない人がいます。汗)
あくまで大切なのは「適度」な運動をすること。フルマラソンを毎日走るような運動は、かえって看病してもらう立場へ一直線です(ノД`)
不労所得者などの富裕層では、運動をする人の割合が高いというエビデンスがあります。頭と体、どちらからでも切れる生活を目指してワークアウトしてみませんか?
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※この体験談は個人の感想です。
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感想:「思ったより信じられる記事っぽくなったな」というのが所感です。人は文章を読みながら「ホメオパシーか、こりゃデマだな」と自動的に不信感を募らせるのではなく、きちんとコンテキストで判断できるのかもしれません。
疲れましたが、ライターとして一皮むけた気がします。SEO業者のように毒の強い単語ばかり突っ込んでしまったこの記事がスパム判定をされないかちょっと心配です。
インスピレーションを下さった Enbos様、ありがとうございました!
最後に。
私も幼少期に、火傷は焼き直せば早く治ると手をコンロに突っ込まれました。今でもスローモーションで覚えています。
それだけが理由ではないとはいえ、後年絶縁や刑事訴訟を真剣に考えました。だから、私はこの手の人を許すほどの度量はありません。
子供は焼かれたことを決して忘れません。決して。だから、万が一、億が一でもこのページにホメオパスのお母さんが来たなら、お願いします。子供を傷つけないで、病院へ連れて行ってください。
米すら自力で炊けないメシマズが1年で「料理上手」と呼ばれるまでに試したこと
約1年前まで料理が死ぬほど下手でした。言い訳をさせてください。親の代からです。ネット用語で料理が殺人的に下手な人を「メシマズ」と呼びますが、かつての自分を振り返るとこれほどピッタリな称号はあるまいよ、と思います。
当時やらかした失敗はこの通り。
- 米を炊こうと炊飯器を買うも「米をとぐ」という動詞が何を意味するか分からず断念する。そのまま炊飯器は使われず化石となる
- ほうれん草を「ゆがく」という言葉がどれくらい湯に浸すことを指すのか分からず5分放置して、ドロドロほうれん草を完成させる
- パスタを茹でるとき、塩をひとつまみゆで汁に入れるとよいと聞きこぶしの「ひとつかみ」を放り込んで惨劇を起こす
思い出すだけで胸が痛いです。
学生時代からもっぱら外食とコンビニご飯で生活し、新卒になって一人暮らしをしたものの自炊は不可能と悟りました。その後は料理上手な友達を家へ引っ張り込んでルームシェア、あまつさえ弁当まで作ってもらっていました。
当時、気分がノッたので作ったチヂミがこちら(閲覧注意)。
形になってない。あとすごくマズかったです。
これではいかん、と自分の料理を恥じたことは何度もあります。レシピ本を何度買ったか知れません。しかしそこには「銀杏切り」「適量」「きつね色」など、すでに料理を経験した人にしか分からないであろう専門用語がビッチリ並んでおり、3Pでギブアップ。
以来、私に料理は無理と思っていたのですが、同じく親の料理が下手であるにも関わらず素晴らしい料理上手さんからコツを教わり、なんとかお世辞でも「料理上手」と言ってもらえる程度にはなりました。そのコツをここへ記します。
この記事は普通に料理できる人の役には立ちません。マイナスからのスタートを切った人間が、いかに普通の料理ができるようになるか、ただそれだけの記録です。
高い食材から使う
料理が下手な人は、外食より高い金額を自炊へ投資して初めてまともな料理が作れます。主婦が余りものでぱぱっと作る「安ウマ」は極めて高度な技術です。特に料理を全くしたことのない人の場合、初期投資がハンパなくかかりますがぐっと堪えてそろえてください。
同じ「鶏肉を焼く」という工程であっても、肝心の肉が100gあたり138円か278円なのかで味が信じられないほど変わります。ここまで金をかければ誰だって美味くできるだろう、と言われるくらいの材料からスタートせねばなりません。料理に慣れてきて初めて「ここは節約できるな」というポイントが見えてくるのです。
ではいい材料はどこで仕入れるか。簡単なのは「街の富裕層が通うスーパー」を見つけることです。極端な話、松屋銀座でもいいです。都内でリアルな線を狙うならピーコックやプレッセ、紀ノ國屋でしょうか。地方にお住まいの方は楽天をご活用ください。
食材の質にこだわると最終的にはいい肉屋から直接卸すといった話になりますが、そこまで行くと「普通に料理できる人」というより料理マニアの道へ足を踏み外すのでここではオススメしません。
初心者向けレシピを買う
レシピ本は種類豊富です。そして「初心者向け」と書いてある本のほとんどが役に立ちません。執筆者に料理研究家が多いせいでしょうか、私ほど料理ができない人間がいることを想像すらできていないのではと推察します。私が目の前で料理して、下手な人間の手本を見せてやりたい。
たとえば、このレシピ。
大人気☆揚げないチキン南蛮 by けいちょん*megu [クックパッド]
最近私も作って美味しかったのですが、初心者の頃に読んだとしたら「玉ねぎは水にさらす……水にさらすってどういうこと? 水に漬けるのかな? 何分くらい?」となったでしょうし、「じっくり狐色になるまで揚げ焼き」って、きつね色ってどの色? 揚げて焼くってどういうこと? と火の止めどころを間違えて焦がしたと思います。
ここでは、そんな基本を知らない当時の私でも頑張れた2冊をお伝えします。
「ささみって、この肉の部位をを指す名称だったのか。でもって、筋を取るってこういう図の通りに行うことか」
この本で私が学んだ一番大きなことです。何よりこのレシピで調理すると、下手な店よりまともな味のものができる。これは外食依存に陥りやすい料理下手にとって大きな自炊のモチベーションとなります。
こちらも究極の初心者向け。フライパンのサイズが違うと熱伝導が変わるので失敗するといった、料理初心者なら「そんな理由で失敗してたのか!」と感心する背景がしっかり書かれていて助かります。
なお、レシピに対して従順に作りましょう。レシピから逸脱していいのは、そのレシピを作り慣れた上で、アレンジした料理を自分1人で完食できるときだけです。
失敗を恐れず味見する
塩を振るときに少なすぎて味がしない。ダシを取ったはずなのに水の味。料理が下手な人ほど分量に対して臆病になります。そんな私を見ていた親戚のシェフに「塩が多いことくらい恐れるな!」と教わりました。
濃すぎてもスープを足すことはできる、サイドメニューで薄味のものを出してバランスを取ることもできる。失敗を恐れて何もいれないご飯こそ真にマズイ。それから何回か塩っぽい料理を作ったものの、今では「適量」が何となく分かるようになってきました。
なお、ここで肝心なのは味見を欠かさないことです。くれぐれも勇気を出した味付けでそのまま人へ出すことはないようにしましょう。
食事をしながら「何をすればもっと美味しくなるか」考える
外食で何かを口に入れたとき。家でお惣菜を買ってきたとき。確かに美味しいけれど、100点満点なことは少ないように思えます。そんな時に「自分だったら何を足せば100点を作れるか」を想像することで、自然と味付けへの理解が深まります。個人的には、これが料理を上達させる上で一番大切なポイントだと思っています。
この考え方をするまでの私は、料理を口にしても美味しい・美味しくないの2択でしか判断していませんでした。しかし「この料理をさらに美味しくするために何ができるか」を考えるようになると、いざ自炊したときも「何となく美味しくないなあ……これは前の外食と同じパターンだから、塩が足りてないな」と改善できるようになったのです。
この思考が身につくと、料理下手なうちは決して挑めない「レシピのアレンジ」へ挑めるようになります。自分が何かを足すことでどう味が変化するかさえ理解していれば、アレンジも怖くはなくなるのです。
人へ料理を出すときは家で何度も作ったものだけにする
いつもは家庭料理を作っている方でも、いざホームパーティとなるとおもてなし料理を考えたくなるもの。しかし人さまへ出す料理は絶対に何度も自分が作り、成功体験を積んだものだけにしましょう。
何度も作った料理はかかる時間も性格に予測できる上、失敗してもリカバリの方法が思いつけます。もしホームパーティが控えているなら、おもてなし料理を自分でいくつか試しておきましょう。
おわりに
ここまで、料理がとことん下手だった私がどうにか人並みに料理ができるまで、つまり人様へ料理を出してお世辞でも「上手だね」と言ってもらえるまでの軌跡を記したものです。私と同じ前提を抱えている人がいるなら、少しでもそのハンデが和らぎますよう祈っています。
料理がここまで下手な人間が生まれた過程についてはこちら。
現在の私が料理で一番参考にしているサイトです。ここの指示に従ってトンカツ作ったら下手な定食屋より美味しかった。もうこのサイトを見る前には戻れません。
社会の底辺から階層を上ると、努力しない底辺が許せなくなる
社会の底辺の人とは関わってはいけませんという記事が挙がった。内容はざっとこんな感じだ。
第1階層 上級公務員、経団連加盟大企業勤務者、難関国家資格、成功した起業家。配偶者含む
第2階層 2流中規模会社勤務者。2流公務員
第3階層 中小企業勤務者、ニート
第4階層 フリーター、非正規社員、派遣社員、飲み屋、風俗嬢など売春婦
唐突ですが、第4階層の人とは、口聞いちゃダメです。理由は、頭が悪いからです。第2の理由は、貧乏だからです。そういう人が正常な精神状態を保てるわけがありません、なにをするかわからないのです。
第1階層だけなぜ配偶者込みなのか、ニートがフリーターより上にあるなど突っ込んだらキリがない。
実はこの筆者、別の記事で自分自身が第4階層の出身だと明らかにしている。
私は大学受験も失敗してすべて不合格になり一年浪人をして偏差値40の女子大へ進学しました。非正規労働者です。
当初、時給900円のバイトとして採用されたのです。
つまり、彼女自身が軽蔑していたのは第1階層の夫に恵まれるまでの、過去の自分。それを知ったとき、思わず声が出た。
「生存者バイアス」という言葉がある。
苦労して立身出世した人が、自分の目線だけで成功体験を語ることだ。時には、他人の不幸を努力不足と判断してしまう弊害もある。有名なものではワタミの創業者による「無理というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。途中で止めてしまうから無理になるんですよ」といった発言がある。
おそらくブログの執筆者は彼女なりの第1階層へのぼりつめるまで努力されたに違いない。そして努力した自分に比べると、もともと自分がいた第4階層はいかにみじめで怠惰に見えただろうか。そんな生存者バイアスが「底辺階層の人は、ほとんど一生底辺階層です」という強い発言に表れている。彼女の目から見て、第4階層の知人は許せないほど努力不足だったのだ。
彼女の環境は詳しく知らないが、私も階層を上がったと言えるかもしれない。最初に育った環境は笑えるくらいひどかった。親からの待遇が悪かったうえ、学校もイジメの楽園だった。
特に覚えているのは、いじめっ子が同級生を脱がせ、背中に円をマジックで描いた日のこと。何をするのかと思ったら、その子を押さえつけてダーツの的にした。コンパスがダーツ代わりだった。その子はしばらくして一切他人と話せなくなり、学校へ来なくなった。私の初恋の相手だった。
別の子は臭いからといじめられていた。シャワーが家にないと言っていた。服もボロボロで、生活保護にすらアクセスできているか怪しかった。その子へ普通に話しかけた私も分かりやすくいじめられたが、掲示板へ「いじめは犯罪であり、警察や教育委員会へ訴えます」と張り出した。
しかし職員室へ呼び出されたのは私だった。「いじめている方の子もいろいろあってね、許してあげてほしいんだ」と教師は言った。その子が母親からひどく虐待されていることを聞かされた。
出口がなかった。誰も幸せな子がいなかった。こんな場所にいるのは嫌だった。早くここから抜け出して、初恋の子も一緒に引っ張り出したかった。私はこれまでにないほど勉強して私立中学へストンと入学した。
20歳のときに成人式で同級生に会った。少年院にいたので出席できない子もいた。あとはニート。努力の末に挫折し、罪悪感と闘っているニートじゃない、高卒でジョブレス、親にお金をもらって暮らすだけ。逮捕された子は銅線を盗んだらしいが、すでに銅線がどこに行けばあるのかピンとこないほど私の世界は隔絶していた。
彼らの世界は止まっており、変わらず私は「臭い女に触ったからいじめられるべき人間」だった。私が触れた食べ物は誰も手を付けられなかった。えんがちょー。マジかよ。あれから人間として1ミリも成長してないなんて、いくらなんでもバカじゃないの? ああ、この人たちと関わりたくない。
そのとき私ははっきりと自分がいた世界を軽蔑するのを感じた。南スーダンへは寄付できるけど、こいつらは助けたくない。だって、努力せず底辺にいるこいつらなんて許せない。
かくして生存者バイアスに乗っ取られた私を救ってくれたのは、皮肉にも数年後にやってきた自分の精神疾患だった。当時の私は男へ貢いだ挙句5股をかけられ、精神がミンチ肉のように千切れていた。
心から余裕がなくなると、クレジットカードの金額すら計算できない。コンビニの店員にすらイライラする。犬が吠えているだけなのに、自分が責められている気持ちになって怒鳴り返したくなる。
当時の自分はまるで、あの時のいじめっ子そのものだった。思いやる力も、現状分析も愛情とお金がなくては無理だった。精神的に追い詰められすぎると誰しもこうなるのか。そう気づいてから、同級生への恨みが減っていた。
冒頭の彼女と同じような例を、のちに就職した外資系企業でも多く見た。鬱に倒れる社員を「あいつは無能だから」と切り捨てる社員は、まさに生存者バイアスの塊だった。そうして切り捨てた社員自身が、翌年には鬱になって消えていった。
私は鬱にならなかった。運が良かったのだ。人生最初の上司が面倒見のいい人だった。数えきれない運と人様の助けで偶然にも私は生存した。ただそれだけだ。
努力は無駄と言いたいのではない。たとえば中学受験で努力したのは私だ。繰り上がりの足し算すら嫌いなのに中学受験を乗り越えた。当時の自分に会えたら思い切り褒めてあげたい。けれど私立中学が近隣にあったことや、進学費用があったことは?
初恋の子は今も人とうまく話せない。中学校へ通っていないので学力は小卒レベル。今から高認を受けるにせよ死ぬほど忍耐が必要となる。彼女と私を分けたのは努力ではなく運だろう。
努力は運をつかむための入場券のようなものだ。努力なしに結果は手に入らない。だが努力する力すら奪われている人を罵倒しても何も生まれない。彼らを責めても、かつての自分を傷つけるだけだ。
もしあなたが、自分の運命は努力で変えられると思うなら、その感覚は生存者バイアスの始まりである。自分の人生はある程度変えられる。けれど結果にはいつも、周囲の人や運が必要で、それを持っていない人もたくさんいるのだ。
マネジメントを経験してようやくわかってきた、半年で部下を1人前にするコツ
試行錯誤しながら手に入れた部下や後輩を半年で1人前にするコツをまとめました。
嫌な先輩から、まあまあの上司になるまで
まずは私の経歴を少し。昨年独立するまで外資で働いていました。新卒で入ったのは少数精鋭にしたって、いくらなんでも少なすぎない? と人事の肩を揺さぶりたくなる部署でした。
入社2年目には「もう1年いるんだからシニアだね!後輩指導よろしく」と宣告され、必死で3人指導してのち転職。その後はプロジェクトごとに部下を持っていました。独立した現在は外注マーケターとしてトレーニング業務も担当することもあります。合計で指導した部下・後輩は約10名前後。
最初は最悪の上司だったと思います。詳しくは「いつの間に自分が「細かいことにウルサイ嫌な先輩」になっていた 」に書きましたが、もうタイトルだけでお察しください案件。自分でもこれはいけないと思い四苦八苦した今、半年くらいで「いいね、それで行こうか」と言うだけでメンバーが活躍できるくらいにはなりました。
彼ら・彼女らがもともと私などいなくとも大活躍してくれるデキる人材であったことは間違いありませんが、以下は実際に私が意識的にやって実際にワークしたので、備忘録までに記します。
完璧な仕事ではなく、前回比で評価する
部下をうまく育てる上司と、つぶす上司。人それぞれとは言いますがお定まりのパターンがあります。部下をつぶす上司は「自分が設定した100%の期待値に対して、どれくらい仕事ができているか」で査定するのです。
100%の完成物を出すよう部下に要求しても、部下はたいていそれを達成できません。上司より仕事に不慣れなのはもちろんのこと「100%の成果物」像が上司の頭の中にしかないので、より完成度を上げるためにどうすればいいか分からないからです。
さらに、このタイプの上司へどうすればよくなるかを質問しても、
- お取引先へ出せるレベルの資料を作れって言ってるだろ
- 昔の資料もあるから、その通りにやれ
など抽象的な答えが返ってきます。上司自身も自分の求める100%の成果物がどういう要件で成り立っているか言語化したことがないため、部下の上げてきたものをダメ出しすることしかできないのです。
対して、部下をうまく育てる上司は「前回の仕事」と比較して部下を評価します。
同じ業務なら2回目以降は改善されることが多いもの。そこで何が成長しているか、どこが上司の期待値に沿っていたかを説明すると部下は進むべき方向性が見えてきます。
さらに優れた上司はこう考えています。
- 顧客に出せるレベルへ仕上げるのは上司の責任。部下の責任ではない
- 部下が前回より期待値を下回るなら指導方法に問題があったはずだ
この考えればたとえ成果が思うように出なくても、上司自身がストレスを感じにくくなります。上司のストレス度合いは指導している部下へ筒抜けとなりますので、自分がリラックスすることも大切です。
強みを極限まで伸ばし、結果的に弱みを克服する
部下にはそれぞれ強みと弱みがあります。そして部下を潰してしまう上司は「どうにかしてこの弱みを直してもらわないと」と考えてしまいます。たとえばこんな指導をしていないでしょうか。
- 仕事が早くてもミスがあったら意味ないんだぞ
- 慎重に進める点は評価しているんだよ、でも納期を逃したら元も子もないよ
このように弱みを克服させる指導は一見理にかなっていますが、苦手分野へ取り組むと得意分野より成長スピードが遅くなるため、一人前の人材へ成長するまでに時間がかかってしまいます。
部下を育てるのが上手な人は、強みを極限まで伸ばします。たとえば仕事が早い人へ「これだけアウトプットが早いのは初めてだ。お前、将来指導者になれるぞ」と褒めまくります。
褒められて嬉しくなった部下はさらに速度を上げ、60分かかる業務を半分の30分でこなせるようになったとしましょう。
そこで「お前、あと30分もあるなんてすごいじゃん。そのうち10分をケアレスミスの確認へ割いたら質も量も完璧だからもう私のチェックなしでそのまま出せるよ」と付け加えるのが優れた上司です。部下はあと少し頑張るだけで「仕事が早いうえにミスもない」とさらに加点されます。
このように、後輩や部下の指導においては強みをあえて極限まで伸ばすことで、弱みがカバーされることがままあります。急がば回れ方式で、まずは部下の良い点を指導したいと思っています。
指導が厳しくなるときは仕事を依頼する時点で謝る
とはいえ、忙しいときは成長や強みよりデッドラインを優先せざるをえません。
そういう時は、
「今回の仕事は納期が目の前で成果物をすぐ出す必要がある。だからいつもより厳しいコメントをつけると思う。君の成長を蔑ろにして申し訳ない。今回に限って、いろいろ言われても気にしないメンタルで挑んでいただけないか」とお願いします。
そしてお願いの上で部下へ指導したことは、次回以降きれいさっぱり忘れられても仕方ないと腹をくくって業務を進めましょう。部下の成長速度を無視した指導は身に入らなくて当たり前です。
なお、この「今回だけのお願い!」を連発すると急激に部下の信用を失います。急なお願いをしてもいいのは最大で20回に1回くらいの割合です。
部下に「なりたい自分」を描いてもらう
新しく上司・先輩として赴任してきたら、まずは後輩へなりたい自分像を描いてもらいましょう。「10年後、どんな自分になりたい?」という質問でかまいません。そのときに上司へ気を遣った目標設定をしてしまわないよう、自分があえて地に足の着いたビジョンを描いて手本とします。
たとえば私がよく描いているビジョンは下記のとおり。
- 小さな会社の参謀役みたいな役割を担いたい
- どんなに遅くとも8時には仕事を終わらせたい
- よつばと!のお父さんみたいな親になりたい
ビジョンと言うと「社長を目指す」といった大それたものを考えがちですが、もっと小さな目標で構いません。また、目標は仕事と関係なくてもOKです。そして部下に目標を設定してもらったら、達成へ向けて今の仕事で何ができるかを考えてもらいます。
たとえば営業職に就いているのなら、上記のビジョンを達成するためにこんなことができます。
- 取引先の経営を真剣に改善する提案を通じ社外でも信頼できる参謀役を目指す
- 参謀役に欠かせないコスト感覚を身に着ける
- 効率化できる仕事を10個リストアップして早く帰る
- 早く帰った時間で婚活をして、まずは2年後に結婚を目指す
部下自身に目標を考えてもらい、どうすべきか業務に落とし込むことで仕事で成長する意義を見出しやすくなります。そして週1回~月1回ほど面談して「あの時の目標に向けて、今日までにどんな変化があった?」と確認します。(ただし詰問しないこと!)
そして部下を目標へ近づけるために、仕事の面で何を支援できるか考えてみましょう。自分がすでに行っている効率的な業務の進め方を紹介したり、財務諸表を学ぶのに使ったテキストを貸してあげるのが好例です。
なお、ここで部下を育てるのが下手な上司ほど「婚活パーティへ誘う」など新たなるハラスメントを行いがち……というか、過去の私がやらかした大きなミスの1つです。上司が行っていいのは仕事上のサポートだけであることを心しておきたいものです。
最後に、目標設定をしても部下はやる気を失うことがあります。そんなときは大抵、下記3点が理由となっています。
- 本心から目標を言えておらずやる気が出なかった
- 本当に仕事を通じて目標に近づけるか自信がない
- 目標へは近づきたいがどうやって動けばいいかわからない
こんなときは目標を設定しただけで動ける人間のほうが少ないことを伝え、自分の失敗談も交えて正しい方向へ軌道修正します。その際に目標を変更しても構いません。大切なのは部下に「仕事をやらねばいけない」ではなく「目標のためにやりたい」と考えてもらうことです。
部下が相談しやすい環境を用意する
ここまで設定すれば、部下はある程度自分で仕事を始められるようになっています。とはいえ成果物を出すまでには上司の確認が必要です。そこで部下から上司へ話しかけるハードルをむちゃくちゃ下げることが重要となってきます。
ハードルを下げるには、こういう方法があります。
ここまでするか?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、ここまでしても部下のピンチを把握できないことすらあります。やりすぎることはない、とハードルを下げて、下げて、下げまくりましょう。
おわりに:最初から育てるのがうまい上司なんかいない
まだヒラだったころ、私は部下を育てるのがうまい上司と苦手とする上司がいて、生まれから違うものと勘違いしていました。しかし時がたち「部下を育てるのがうまい上司」は部下から指導方法を教えてもらいつつ試行錯誤を重ねた方だとわかりました。つまり今日からでも私たちは指導スタイルを変えて、成長していけるのです。
特にジュニアマネージャーの頃は「私が育てなければ!」とがんばりすぎてマイクロマネジメントをしてしまい、部下をつぶしがちです。しかし部下は上司なんていなくても勝手に成長できる独立した人間。部下に自分をどう利用してもらえれば部下のためになるか、人生のサポーターくらいに考えたほうがよいということに気づけました。
さて、今の私が完璧な上司かといえば、そんなことは全然ありません。ここまで書いたこともできず、自分で「やっちまった」と思うこともしばしばあります。でも前よりはマシかなと思っています。
最後に、かつて私が指導した方たちへ。リストを見てお前全然できてないじゃん、と思う点があればご指導ください。反省および改善させていただきます。そして偶然もあったけれど、私の部下や後輩になってくれて本当にありがとう。これからも至らぬマネジメントですが、私をうまく利用して成長の糧にしていただけると嬉しいです。
オンライン相談所『恋愛障害の保健室』を開設します
デートした後、疲れてしまう。気づけば都合のいい女にされている。尽くしても報われず、愛してくれない人ばかり選んでしまう。そんなあなたのために、オンライン相談所『恋愛障害の保健室』を7月15日より開設します。
もともと恋愛相談を数百件いただいてきた身ではございますが、1日に何件もご相談をいただくこともあり、返信できない状態となっておりました。そこで少しでもご相談者様と交流できるよう『恋愛障害の保健室』をスタートします。
サロンというとファンミーティングのようですが、この会は「メンバー同士も含めて支え合うことで自己肯定感を上げ、いつかは保健室から卒業してもらう」ことを目標にしています。そういう意味で、少人数でも個別に対話ができれば嬉しいです。
自分を愛してくれない人を好きになり傷つき続ける「恋愛障害」というコンセプト自体は、新刊の『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』から生まれていますが、本を購入していただかなくともご参加いただけます。
上記の本は前半でどういった男女が恋愛障害に苦しむかを、後半へは自己肯定感を育てるエクササイズを掲載しています。「恋愛障害の保健室」では文字数の都合でやむなく本に掲載できなかった5万字の「自分を好きになるエクササイズ」も公開します。
参加したからといって、エクササイズを実施しなくてはいけないわけでもありません。学校の保健室と同じように休みたくなったら来て、元気になったら卒業していってください。
<掲載予定となっているエクササイズの例>
- 彼や彼女の好きな曲ではなく、自分が好きな音楽を聴く
- しんどくなってきたら上手に休憩を取る
- 商品を勧められたら「お金を出してくれるならいいよ」ときれいに断る
- 断り切れないお誘いをスルーする
- 自分のペースでお酒を楽しむ……etc.
その他、うまくいかないときの心の立て直し方、思い切って休む方法など、恋愛障害かに限らず人生のサバイバル術をご案内していきますので、少しでも活用していただければと思います。
会へご参加されたい方や、詳細をご覧になりたい方はこちらをご覧ください。
なお、拙著はこちらからご購入いただけます。男性の事例も数多く掲載していることから、男女を問わずご好評いただいております。よろしければお手に取っていただければ幸いです。