トイアンナのぐだぐだ

まじめにふまじめ

なぜ警戒している女性すらモラハラ男にひっかかる? 世間が抱くモラハラへの誤解を解く

モラル・ハラスメント、略して「モラハラ」という単語も、よく知られるようになった。だが信じられないほど世間が考えるイメージに現実とのギャップがあり、この溝を埋めねば誰が次の被害者になってもおかしくない。この文章は、あなたをモラハラの被害者にしないために書いている。

 

モラハラの定義は全部書くと長くなってしまうので一部抜粋する。

  • 罪悪感を持たない。責任を他人に押し付ける。
  • 強い者には弱く弱い者には強い。
  • 際限もなく非現実的なほど高い欲求を周囲の人にする。
  • 他人の不幸は蜜の味。

なんとまあ、並べるとクソサイコパス野郎と区別がつかない。罪悪感を持たず他人へ激しく要求し、責任を他人へ押し付けては慌てふためく他人の不幸を喜ぶ。生きる害悪、空気界におけるダイオキシン

 

しかし、現実にこんな人間がいたらどうなるだろうか。たとえば小学校で「俺様の友達になりたかったらテストの答案をすべて俺の名前で提出しろ」と要求して、先生に怒られているのを大笑いするような人間がいたら? 中学を卒業するまでには孤立しているだろう。彼女を作ることや就職なんてままならず、不遇の一生を送るに違いない。

未経験者がイメージする「モラハラ男」はこんな感じである。モラハラについて説明したウェブサイトには最初だけ優しいけれど豹変するなど特徴が記載されているが、被害を受けたことがない人が想像する「最初だけ優しい」は、小さい子へ「飴あげるから」と話しかける誘拐犯のイメージくらいに曖昧だ。

 

だが、モラハラの加害者を何人も見てきた結果わかったのは、彼らが全面的にいい人である点だった。周囲からの人望も厚い。接客業で常連客を何人も抱えていたり「あの人が言うなら買おう」と言わせる実力があることも少なくない。女性なら「どんな人にも優しくて、まるで女神だ」と言われていたケースもある。とにかく世間からの評価はバツグン。

モラハラをする人には普通の人が見せるような弱みやずるさなどの隙がなく、人間離れしたように感じるかもしれない。だが、それもまたカリスマティックに思われるから批判する人は少ない。「あの人はいい人すぎて怖い」などと言おうものなら「そりゃ、お前に比べたらいい人だろうな」といじられて終わりである。

 

だから、モラハラは怖いのだ。モラハラの加害者は自分でも無意識に、支配できそうな人を見つける。ターゲットを見つけて恋に落ちると、誰にも負けない情熱的なアプローチをしかけてくる。

「〇〇さんと話してると、生きててよかったって思えるんだ。本当に愛してる」

「少しでも〇〇さんの力になれたらうれしい。僕にできることは少ないかもしれないけど、人に気を遣える繊細さがありながらも芯にある美意識は譲らない。そんな人、あなたくらいしかいない」

「今までこんなに心を開ける人はいなかった」

こんな風に激プッシュされる。なおここまで加害者の原文ママ

 

さりとて彼の前評判は最高だから、周囲もモラハラ人間と付き合うのを後押しする。

「これまで気が弱いからって変な男ばっかり寄ってきたけど良かったじゃない」

「彼女がXXさんとか恵まれすぎ。このモテ期を逃すなよ」

などなど、悩んでいる自分が贅沢者のような扱いを受けるだろう。察しがいい人は相手に底知れぬ違和感を抱いて付き合うのを躊躇するが、疑い深い自分が悪いような気がしてくる。だからモラハラ傾向がある人間と付き合うのはむしろ自然な流れだ。

 

女性からの相談が多いのでここからモラハラ男のケースになるが、付き合ってから少しずつ愛情が重く感じられることが多い。休日の予定を全部質問される、友達と遊んでいても迎えに来られる、今日は1人でいたいと言っても会いに来るetc。

けれどこの段階では友達に相談してもまともに取り合ってもらえない。「いいじゃん愛されてて~、よっぽど大事なんだよ~。ノロケでお腹いっぱいだわ、私も彼氏がいたらなあ」で片づけられるのがせいぜい。友達が悪いのではない。この段階でモラハラと普通のノロケを区別するほうが難しいのだ。

 

さて、そのうちモラハラに耐えられなくなって女性が抗議する。そうするとこんなセリフが待っている。

  • そんなに僕と過ごすのが嫌だなんて知らなかった。いつから僕を裏切るようになったの? 早く前の〇〇に戻ってよ。
  • 最初から僕のことはそんなに好きじゃなかったんだ。僕はこんなに好きなのに。毎日デートは車で出迎えたし、ご飯をおごってあげてたじゃん。僕みたいに少し関係に向き合ってくれてもよかったんじゃない。
  • 別れたら周りは悲しむんじゃないかな。こんなささいなことで別れるなんて、僕は止めないけど大人としてどうかと思うな。

モラハラ男に多いのは「自分はあなたを止めないけど、大多数は自分に賛成するだろう。だから間違っているのは君なんだ」論である。これに抗うのはしんどい。共通の知人や友人がいたら別れた理由を自分のワガママですと開き直れる人は少ない。愛情が重たいと感じる自分が身勝手なんじゃないか。自分こそもっと彼に尽くすべきだったんじゃないか……こんな風に別れるのを思いとどまって地獄が始まる

 

実は、この間にモラハラ男はしれっとあなたの「裏切り」を周囲に相談するのだ。自分はこんなに愛してる、尽くしているのに見返りがないばかりか別れを切り出された。きっと彼女はもう自分を愛していないし、何なら浮気しているかもしれない。普段から誰よりも「いい人」で通っている彼だからこそ、周囲は彼の側につく。どうせ付き合っても別れても、あなたは悪役にならされるのだ。

 

さらには彼なりの「報復」として浮気されることすらある。浮気が発覚しても、彼はむしろあなたを責めるだろう。「こんなに愛しているのに信じてもらえないから浮気したんだ。浮気自体は悪いことかもしれないけど、君はその前に僕を裏切ったよね?

いつの間にか彼女は、彼の求める形で愛情を返さなければいけない立場へ追いやられる。周囲にも相談できず、限界に達した人は逃げ出す。周りの人間関係ごと絶縁することもままあるので、友人は最後までモラハラ男の正体に気付かない。

実例では女性が精神的DVを理由にモラハラ男を訴えたにも関わらず、共通の知人は「親権を勝ち取るために嘘の訴えをした」と信じていた。再婚後、2度目の訴訟で再びDVを訴えられたことが広まって「もしかして……」と露呈したのである。

 

モラハラをしてしまう加害者も不安でいっぱいかもしれない。無限に愛情を注がれないと愛されている自信が持てない。だから相手へ際限ない欲求をしてしまったり、小さな拒絶で自己否定されたように感じて報復に走ってしまう。だがそんな彼を救えるのは彼自身だけだ。

彼女や妻は女神や医者にはなれない。モラハラ男に必要なのは愛より精神療法である。だからもし今、パートナーにその気があるならカウンセリングに誘ってみてほしい。それがだめなら、走って、逃げ出せ。

 

モラル・ハラスメントの権威であるイルゴイエンヌ氏の書籍。入門にもぴったり。

モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない

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モラハラ人間を笑い飛ばしたいならこちらの本がおススメ。気分が重くならない痛快なモラハラ入門でした。

妖怪男ウォッチ

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 自著にもモラハラ男と付き合ってしまった場合の距離のおき方をお伝えしました。別れようにも情がうつって別れられない方はこちらをどうぞ。

恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか? (光文社新書)

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