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なぜ承認欲求に人は狂うのか?「デブ・ブス・キツイ女は痴漢に遭わない」と炎上したブログの分析

「痴漢に遭わない女性の特徴」として、デブ・ブス・キツイ女性を挙げ「痴漢に遭わないというのは、世間の需要に完全にミスマッチ」とまで書いたとあるブログが炎上した。

当初は炎上マーケティングによるウェブ広告収入が目的と思われたが、広告主であるGoogleは倫理に反することを書けば掲載を打ち切るらしい。では何が動機か。キーワードとして挙がってきたのは「承認欲求」だった。

今回、炎上したブログの過去ログへざっと目を通して執筆者が狂っていく過程へ分析を加えたい。なお、該当ブログは大量にアンチがおり「ブログをクリックしたくない」という要望も大きいことから、引用のみで分析の概要はご確認いただけるようにした。

 

ブログの始まり

炎上したブログ「散るログ」の執筆者であるチルド氏(id:cild)は2014年3月にブログをスタートした。なんだ私と同時期じゃないかと、急に親近感が湧く※1。初期チルド氏の記事は素朴でセンチメンタルな文章も多い。下記は私が特に好感を抱いた文である。

ぼくのお母さんは家にいません。夏休みのさいしょに朝おきたらお父さんがいっぱい電話をかけておねいちゃんが泣いていました。

みんなママがジョウハツしたといいました。

(中略)ぼくのクラスにはお母さんがいないお家が6人います。かたおやの子です。みんなお母さんがかえってきてみんなで母の日ができればいいのになあと思いました。

2014-05-10 「母の日」 2年5組 千原 蓮

 

このころには感情を表に出した「日記」に近い記事が目立つ。千原さん=チルド氏が実際に片親かは不明だが、そうでなくてもシングルペアレントの家庭に向けられた優しい目線は胸を打つ。と、同時にこの記事はチルド氏がまっとうな共感能力を持ち、サイコパスでも自己愛性人格障害でもなさそうだと示す資料だ。

 

現実とネットの混同

もともと、チルド氏はネットと現実世界を混同しやすい人ではあったようである。

スターを見ると強烈な胸の鼓動を抑えることができない。

2014-05-29 知らないと恥?はてなスターの正しい使い方

ブログを初めてたった2ヶ月、ブログへの評価である「スター」に強い関心を示している。後日だが、初めて有料の「スター」を手に入れた際はその喜びで1記事書いてしまっている。有料といっても、書き手にお金が渡るわけではない。仮想通貨に一喜一憂してしまうのは、正直リアル世界で生きている人間には少し怖い。

 

現実世界とネットの混同は、さらに顕著な形で現れる。

僕が自分はバイセクシャルなのではないかという疑惑である。

なぜ、急にこんな疑念に取り憑かれたのかと云うと、このブログ、cild'o'blog のアクセス解析を見たからである。昨日まで気が付かなかったのだが、検索からこのブログに来たワードでなぜか「バイセクシャル」がトップになっている。

2014-06-20 バイセクシャルを初めてマジメに考えた

現実の友人が見たら「お前、ちょっと落ち着けよ」と言いたくなる記事である。検索キーワードで人間の性志向が決まるなら、私の性志向は村上春樹先生になってしまうんだが?本来はこのあたりで一度ブログを休憩したほうがよかったのかもしれない。ブログを開設して4ヶ月、PV(ページ閲覧数)を公開し純粋な承認欲求を満たしつつも、「こんなものじゃない」とくすぶっている様子が見られる。

 

そんな中、異変が起こる。記事がヒットしたのだ。

 

ヒット記事と承認欲求の高まり

チルド氏のブログが有名になったのは、この記事がスタートかと思われる。以下、抜粋しながら引用する。

問題になるのが、はてな女子です。

知的な文章で日常を綴り、正しい日本語で良書を紹介します。しかし、働く女性が本を買うでしょうか。育児をしている女性が読書をするでしょうか。そんなヒマがあると思いますか?

(ウェブ広告で)収益を上げているのは、ファッションブランドや流行のコスメでしょう。残念ながら、はてな女子がファッションやコスメに強いとは思えません。それは中身ではなく外見を飾るものですから。つまりはてな女子の趣味と興味は、ネット商材と致命的にミスマッチなんです

2014-08-31 はてな女子限界説。彼女たちは10年後絶滅している

注、「はてな女子」とはブログの中でも㈱はてな が提供するブログを使用する女性のこと。

このヒットが、チルド氏にとっては大きな喜びとなり、また今から振り返れば大きな失敗だったとも言える。なぜならばこのブログは①ニッチなテーマ設定 と②女性差別の炎上芸でヒットしてしまったからだ。

 

①のニッチなテーマだが、「はてなブログを使う女性」という一般人からすると誰かもわからないネタだったことが課題である。チルド氏が底なしの承認欲求を満たし続けるためには、ブログにとどまらない活躍を望むところだろう。

だがはてなブログを使っている人の間だけでのヒットは、他媒体からライター依頼が来るきっかけになるような汎用性のあるテーマではなかった。

 

②は「女性が本を買うでしょうか」と一般女性をバカにしたと誤解を招く表現で炎上してしまった点。ジェンダー問題はネット上で非常に燃えやすく、それは今回炎上した「痴漢に遭わない女性の特徴」でも同様だ。

これをやると本人も最近指摘するように女性ファンを失い、媒体からの依頼も失う。それでも書いてしまうということは、たぶん根っから女性を蔑視しており、しかも自覚がないというブログでジェンダーを扱うには不向きな方である可能性が高い。となれば、二度とこういうことをしないのが得策である。だが、チルド氏は女性蔑視による炎上で、成功体験を得てしまった。

 

長い低迷とスランプの発生

その後、チルド氏のブログは小ヒットを飛ばしながらも、長期的な低迷に入る。ライフハック系で進めようとSIMカードを紹介してみたり経済問題に言及してみたり。しかしどうにも伸び悩む。そこで生み出したのが「アフィリエイト」だった。

注、アフィリエイトとはブログなどに広告を貼って収益を得ること

 

「2015-05-14 ブログ初心者の僕がグーグルアドセンスを申請してみた」を皮切りに、アフィリエイト系の記事を書き続ける。一時彼はアフィリエイターとして収益を目的にブログを書く路線へ変更したものと考えることもできるかもしれない。しかし、実際は承認欲求を得ることだけが、目的だったことが以下からわかる。

インターネットは個人の能力をスケールする空間なんだよ。

(中略)でも、その現実で突きつけられたのは、僕が泡沫のカスであるという真実なんだよ。悔しいよ。僕はインターネットで何者かになりたいんだ。 極論アフィカスでもいい。

2015-06-11 アフィカスになりたい。はるばるやってきたインターネットで泡沫のまま消えたくないんだ

 

冷静に分析を書くつもりだったが、これを読んだときは

「誰か彼を止められる精神科医はいらっしゃいませんかー!クラウドファンディングで治療費出すから!一度ブログから引き離してあげて!!!!!」と思った。

 

大事なことだから書くが、インターネットは個人をスケールする場ではない。インターネットは道具だ。自己表現の場にしてもいい。商売にしてもいい。だが、インターネットは誰かの存在価値を決める場所では、決して、ない。

むろんチルド氏の承認欲求はアフィリエイトだけでは満たされず、その後承認欲求がうまく満たされないことからスランプとみられる表現が増えていく。

なんも書けねぇ - 散るろぐ

ブログがしんどい - 散るろぐ

タイトルだけで、スランプが伝わってくる。常にヒットし続けるブログなどありえない。しかもチルド氏は毎日のようにブログを書いている。毎日書いたものが大ヒットしていたら、はてなブックマークがチルド氏で埋まってしまい、意味をなさなくなるだろう。むろん、それが彼の夢だとしても。

 

炎上してもいいから、僕を見て

 

そして手を出してしまったのが、燃えてもいいからとマルチ商法を名指しで告発し、しかもその後「ある人が指摘したから」と罪をなすりつけて続編執筆を取りやめる行為だった。ちょっと成り行きを説明するのがめんどうなので、見たい人は魚拓でどうぞ。

2015-10-18 連載の中止とお詫び

そして、その時の反省として「承認欲求」を口にしている。

ブログを書いていると、同じようにブログをやっているみんなから認めてもらいたくなる。その基準のひとつがアクセスの多さなんだよ。

だから、いつしか僕は、なりふり構わずアクセスを求めるようになった。アクセスさえ多ければ、みんなが僕を認めてくれるんじゃないか。そう思うようになってしまった。

(中略)これからは、初心に立ち返って、いちブログ書き、いちブックマーカーとして、自分を律していきたい。

この文章では彼は反省の言葉を口にし、炎上狙いのブログはやめたいと口にしている。だが、その数日後に書かれたブログは「痴漢に遭わない女性の特徴」だった。

ウェブ魚拓でも読むことができるので、読みたいかたはこちらからどうぞ。ただし、痴漢被害に遭われた方はフラッシュバックや怒りを抱く可能性が高いのでご注意。

 

まとめ:必要なのは反省より「治療」と「休息」

ここまで4000字近くなってしまったので、簡単にまとめたい。チルド氏はすでに承認欲求に引きずられ、炎上商法をやめたくても止められない状態になっていると推察される。ここ数か月のスランプを吹き飛ばすように炎上で得た認知度に、彼はいくら反省しても立ち返ってしまうだろう。

炎上そのものは全く問題ではない。ただ私は、チルド氏の炎上は性暴力被害に遭われた方と、そしてチルド氏自身の健康を損なう恐れが大きいのを危惧している。適切な承認欲求を得るには、彼がライターとして真に大成することが一番早いだろう。

だがWeb編集にも携わる身から申し上げて、この手の炎上をする方へは仕事を紹介しづらい。チルド氏の文章は初期を見る限り十分魅力的だ。だからこそ、1度休息を取って、素朴で共感を誘う文体で戻ってきてほしい。

 

※  引用の太字は私が独断で文へメリハリをつけるために引いています

※1 以前にもはてなダイアリーgooブログで執筆されたことがあるようだが、今回は割愛。