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トイアンナのぐだぐだ

まじめにふまじめ

電車で読めるポルノとして『最貧困女子』が消費されている事実から目を反らしてはいけない

ライフスタイル

 

「最貧困女子? あれエロいよな」

とんでもない台詞を聞いてしまった。金曜日、23時の電車。酔客で混雑する車内は雑談が飛び交う。この会話をまともに受け止めたのは私だけのようだった。

 『最貧困女子』は高齢者やシングルマザーなど、弱者に光を当ててきたルポライター、鈴木大介氏の代表作。発売から1年が経過した今も、幻冬舎新書ランキング7位という脅威のロングセラー作品だ。※1

 

働く単身女性の1/3が年収114万円未満。その中でも「最貧困女子」は親から見捨てられ、社会から孤立し、そして風俗でも「週1副業女子」に職を奪われる。残される道は格安風俗か、ハードプレイを売りにするか。生活保護を受けようにも制度を理解する知能すらなく、知的障がい者すら食い物にされている現場へ迫るルポは衝撃を呼んだ。そして「貧困」は書籍のテーマとして一般的に販売部数を稼ぎにくい中、稀有な成功例となった。

 

だが、よりによって救い出すべき最貧困女子をポルノとして消費するなんて、浅ましいことができるだろうか? その後飲むことになった複数の男性に「ぶっちゃけて、聞かせてほしい」とお願いして質問してみた。

「エロコンテンツとしての価値はあるよ。 あれって素人風俗嬢の告白みたいなもんでしょ? そりゃ需要あるんじゃない。コンビニで売ってる風俗裏話と一緒じゃん」

「?だったら、素人風俗嬢の告白モノをAVで見ればいいんじゃないの?」

「それよりリアルじゃん。だってインタビューしたやつでしょ? そりゃ普通のAVよりインタビュー記事の方が興奮するって」

 なるほど、風俗嬢の本音を垣間見ているような気持ちになれるというわけだ。峰なゆかのセクシー女優ちゃんギリギリモザイクでも読めばいいのに

「あれは面白系でしょ。エロならAV女優のインタビューかドキュメンタリーがいいに決まってるじゃん」

 

最貧困女子を「素人風俗嬢の告白」と見るか……。確かに字面を追うだけならば、インターネット黎明期の素人告白掲示板と大差ない。だが、それを貧困から救うために必死でルポした新書へ抱くことに、罪悪感はないのだろうか。

別に貧困女子は可愛そうだし、助けたいと思うよ。でもそれと、最貧困女子に出てくるような、場末の素人エロってたまんねーなと思うのは別だし、もうしょうがないんじゃない?男なら内心みんなそう思ってるんじゃねえの?」

 

そこで男性をひとくくりにするのは乱暴だよと嗜めて「今ならネットでも動画がバンバン上がって、素人のライブチャットもあるじゃん? それこそコンビニの風俗裏話!みたいなやつも。なのにわざわざ真面目な新書を買って、エロを感じるのはなぜなんだろうか」とさらに突っ込む。

読んでると【俺、女性の人権考えてますから】感を醸し出せるからでしょ。今までもAV女優のインタビューをしたルポ本とかあったけど、タイトルでエロ目当てなのがバレバレだし、電車とかでは読みづらい。最貧困女子はタイトルだけだと、真面目なルポっぽいのがいいよね」

そりゃあ、真面目なルポだからな。

 

半ば呆れながらも、この男性に怒っている場合ではないことは判った。現実として、セックスワークを扱った作品は性の対象として消費されうると受け止めなくてはいけない。

彼らは片方で社会問題に憤りを感じながら、もう片方では性的に興奮しているのだ。そして男性が一方的な加害者とは限らない。男子の人身売買を扱うルポタージュを、女性が性的に消費しているかもしれない。私は子供の搾取に敏感ですよ、という顔をしながら「電車の中で読めるポルノ」として。

 

私は性暴力のサバイバー支援活動をしているが、常に課題となるのは「サバイバーをいかに次の傷つきから守るか」である。メディアへ"被害者"として露出すれば、容姿への口さがないバッシング、さらなる加害のリスクなどを抱えることになる。『最貧困女子』を含め、インタビューを受ける方は勇気を振り絞って掲載の許可を出してくれている。

勇気を出した彼女たちをいかに「次の傷つき」から守れるか。と同時に、性的に消費すること自体はさておいて、それを「最貧困女子? あれエロいよな」という言葉として外界に出してしまうことをいかにタブーとするか。新たな課題が提示された夜だった。

 

こちらが『最貧困女子』。「これが同じ国で起きている貧困なのか」「何とかしなくてはならない」と大反響を呼びました。私の昨年ショックを受けた著作1位。

最貧困女子 (幻冬舎新書)

最貧困女子 (幻冬舎新書)

 

 

 峰なゆかさんがAV女優の実態についてコミックエッセイ形式で記したもの。個人的には『アラサーちゃん』よりこちらのほうが面白いと思っています。

セクシー女優ちゃん ギリギリモザイク

セクシー女優ちゃん ギリギリモザイク

 

 

話を聞いた男子の口から出てきた「AV女優のインタビューをしたルポ本」。単体とは異なりスポットライトを浴びにくい、企画AV女優の実態を追っています。

名前のない女たち 企画AV女優20人の人生

名前のない女たち 企画AV女優20人の人生

 

 

※1 Amazon.co.jp 売上ランキング 2015/11/05 16:42 調べ