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トイアンナのぐだぐだ

まじめにふまじめ

就活生へ安易にベンチャーを勧める大人が多すぎてキレそう

キャリア 学歴・職歴

3月は就活解禁……という名の茶番である。経団連に参加している企業も一部は半年前から選考を進めている。3月に最終面接だけ残し「ルールは守ったよね?」と就活解禁から内々定を出す。採用スケジュールは業界によるから絶望することはないけれど、すでにレースの半分が終わっている。

 

と、知った学生は焦る。「就活は3月からって聞いてたのに、もう周りは内定者まみれなんですけど!?」と。それで就活に詳しそうな人を探す。私も外資就活ドットコムのスタートアップ期にノリで参加し数年、気付けばすっかり「就活相談に乗る怪しい大人」の一員だ。

しかしこのシーズン、学生から「ある相談」を受けることが多すぎてキレそうになる。学生へじゃなく無責任な大人へだ。

 

就活生:新卒こそベンチャーへ行くべきって○○さんが言ってたんですけど、大手を受けずベンチャーへ行くべきでしょうか?

 

私:その方はどういう背景からそうおっしゃったの?

 

就活生:これからの社会で大企業のスキルじゃ生きていけない。大企業だと裁量権もなくて下積み期間が長いから「どこでも働ける人材」になれない。ベンチャーで即戦力を身に着けてすぐ独立できる人材に育つべきだ、って。

 

頼む、この子の人生に責任取れないんだったら、そういう嘘をつかないでくれよ。

 

大きな裁量権や成長速度はベンチャーの専売特許にあらず

ベンチャーで働く人が「新卒からベンチャーへ入るべき」と言うなら話は分かる。優秀な新卒学生が欲しいからだ。それでも私の周りにいる真摯な採用担当者は、大企業へ行くメリットも見せた上で採用している。ベンチャーの創始者には大手企業出身者も多く、大手の良さを享受した経歴があるからだ。

ところが「大手には裁量権がない」「これからの時代は即戦力が必要」とベンチャーこそ至上と勧める人は、ベンチャーの当事者でないことが多い。というより就職活動すらしたことがない人がたくさんいる。就活をしたからって就活についてアドバイスできるようになるわけではないが、いくら何でも大企業を十把一絡げにレッテル貼りするのは無責任じゃないか。

 

大きな裁量権を持てるのはベンチャーだけではない。たとえば外資なら1年目から大きいプロジェクトが振ってくることも多い。広告代理店もすさまじく鍛えられるようだ。激務と引き換えにはなるが、大企業にだって裁量権の大きな場所はある。

それに、裁量権の大きさと成長スピードはあまり関係がない。「何も指導しないけど今日から君が責任者ね、はい頑張って」とブン投げられるより軍人・山本五十六のように「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」と指導したほうが成長は早いかもしれない。

ほとんどの人は放置されるより毎日褒められる方が頑張れるだろう。そういう意味では伝統的な大手企業の方がよほどあなたの成長へ寄与してくれるのではないか。

 

新卒からベンチャーへ行くメリットを享受できるのは上位1%

ただ、ベンチャーを推す側の論理も理解できなくはない。大企業の「成長」はあくまで社内における仕事の進め方に順応していくだけで「どこでも働ける人材」になれないリスクがあるからだ。

しかし企業が与えてくれるマニュアルなしで働ける人は、トップ1%くらいの優秀層に限られる。新卒からベンチャーで活躍できる条件を出すなら「たとえ会社が無くなっても自分の能力で起業・転職できる」学生である。これに該当する人間はそういない。

 

本来1%のトップ層にしかできそうもないことを「どこを受ければいいですか?」と焦るような学生へ言ってしまえば、ベンチャーへ入社してしまった挙句に会社が廃業し、路頭に迷う悲劇を生むだけではないか。少なくとも「誰かに勧められたからベンチャーへ入るべきか」と悩んでしまう学生へ向けていい言葉ではない。普通の人間が「どこでも働ける人材」を目指すなら、寿司でも握った方がよほど夢に近づけるだろう。

 

大企業は自分が無能でも守ってくれる

99%の就活生はフツーの人材で、むしろ就職後に自分は無能な人間だったと気づく可能性もある。そこで自分が無能だったとしても守ってくれるのが、大企業の名前である。

転職するにせよ新卒企業の名前は履歴書に一生残る。そして「こんなちゃんとした会社で勤めた経験があるなら大丈夫だろう」と信頼してもらえる。わずか4年で会社員を辞め、フリーランスへ転向した私ですらそうだ。

 

さらに日本社会に山ほどあるマナーをタダで教えてもらえるのは、まっとうな企業に属した新卒の特権でもある。「時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます」に始まり、先輩より早く帰る挨拶しぐさから飲み会の話題まで、大企業にはそれこそベンチャーを推す大人が軽蔑するプロトコルが山ほどあるだろう。

だが、ベンチャーへ就職したところで取引する相手はそのプロトコル集団だ。ルールを知らねば彼らを相手に金儲けはできない。反対にプロトコルを守るだけで、無能な人材ですらある程度仕事を回してもらえる。大企業は社名とマナー教育の2つであなたのキャリアを守ってくれる保険のようなものだ。

 

自分が社会のトップ1%として活躍する自信があるなら新卒でベンチャーに行った方がいい。だがもし自分が下位99%、つまり大多数の人間だと思うなら大企業を最初から切って捨てる理由はないだろう。自分がベンチャー向きかどうかは大企業や手堅い中小企業を受け、じっくり採用担当やOBGから話を聞いてから考えてもいい。大手は受けておこう。話はそれからだ。

 

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こちらは裁量権が大きく成長できると言われる企業に所属し続けるリスクについて書いたもの。仮にベンチャーで成長したところで、果たしてそれが「どこでも働ける」人材と言えるのかも分からないのだ。

toianna.hatenablog.com