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トイアンナのぐだぐだ

まじめにふまじめ

電通のデジタル広告不正について、クライアントの立場から「ごめんなさい」と言いたい

電通がデジタル広告領域で、契約期間に実際は掲載しなかったのを始めとする不正が発覚した。私はこれまで数社で電通へWeb広告を発注する立場だった。その上で、この問題が発覚したとき冷や汗が流れた。そして電通の担当者さんへ「申し訳ない」と感じている。不正は電通だけが根源ではないと強く感じているからだ。

 

クライアントは情弱が多い

そもそも、電通はWebに弱い。電通個人投資家向け情報には、電通の強みとしてテレビ、新聞、雑誌、ラジオが図解されている。Webがこれほどまでに重要になった現在、なぜ掲載されていないか。弱いからである。そんなことはクライアントもわかっているが、広告発注は1社に絞ったほうがコストが安くなる。すでにテレビ広告を電通へ依頼している企業なら、Web広告も一括発注することが多い。

また、マーケティングコンセプトは同じなのにCMは電通・Webは博報堂などと製作先を分散してしまえば全く異なる広告があがってくる。芸能人もイラストも違う広告が媒体別に拡散されてしまえばキャンペーンごとの統一性が失われる。あるいは前例主義で「ずっと電通さんにお世話になってるから」と選ばれる。だからWebに弱いとわかっていても、総合力に強い電通へ依頼することが多い。

 

そうなると、電通の営業さんがWebに強くないのはこちらも承知の上だ。その上で依頼主がWeb広告を勉強しておけばいいだけの話なのだが、いかんせん依頼側も情弱なことが多い。たとえば私は比較的Web広告の知識があると言われペーペーのころから社内の偉い人へ説明していたが、それは単にWeb広告の基礎用語を知っていたからである。例えば「インプレッションが多い案よりも、コンバージョンを優先しましょう」と言えるくらいで、つまり詳しい人から鼻で笑われるレベルだ。


クライアントにとって何よりも重要なのは実際の売上である。実際の売りにさえ達していれば、ぶっちゃけ掲載期間が多少いじられていようが、想定インプレッション数に達していなかろうが問題ない。

しかしWeb広告は「実際の売上」を証明するデータの蓄積がない。ネット通販ならそのままオンラインで売れるが、クルマなどリアル店舗で購入する商品に関しては顧客の何割がWeb広告経由で訪れるかを正確に測定できない。

 

対してテレビCMや新聞、雑誌は今までの膨大な統計から、広告の品質に関わらず最低何割が広告から商品を購入するか知っている。しかしWebにはその蓄積がない。にも関わらず、次々と新しいメニューが出てくる。バナー広告でいくら商品が売れるかもわからないのに、やれVRだのネイティブアドだのが登場する。

「効きそう、だけど効能はわからない」という意味で、これらの広告投資は水素水と大差ない。少なくとも、数百万以上を放り込むクライアント目線では、だ。

 

Webに期待されている売上は少ない

であるにも関わらずなぜ、クライアントがWeb広告への投資を止められないか。それはテレビや新聞など既存メディアの凋落が激しいからである。同じ広告費をテレビへ投下してもじりじりと売上が下がっていく。このままではジリ貧だ。お上から鶴の一声で「これからはネットだ!」と号令がかかり、慌てて取り組む経営企画部も少なくない。

 

そんな状態で走り出すから正直なところ、Web広告由来の売上を高く見積もれない。「テストプランのつもりで」と稟議を通すことも負いだろう。億単位で予算がぶっ飛ぶテレビCMと比較すると、Webは数百万円から投資できる。数百万なら、CMを1週間減らすだけで十分捻出できるではないか。というわけで電通さん、ちょっと広告の予算配分変えといて――。これが、私が数社にわたって見てきたWeb広告に対する投資の始まりだ。Web広告の多くはリターンをはなから期待されていない。

 

クライアントが情弱なだけが原因ではない。会社員の大半は会社でメールを使っているだろうし、Google広告を観ている。だがバナー広告をクリックした経験が、これをご覧になっている読者の何割にあるだろうか? バナー広告のクリック率は0.05%前後。効果測定のヒアリング調査でも「バナーをクリックして御社製品を買いましたよ」なんて消費者へはまずお目に掛かれない。テレビや新聞、雑誌ならよくあることなのに。これがまた、Webへの不信を募らせる。

 

このようにWeb広告は実体験からも成果を期待しづらい。クライアントにとっては「予想外に売れちゃって説明を求められたらWebのお陰だと報告しよう」くらいの存在である。

 

こういった経緯でクライアントから合計10億円投下されて、うち300万円だけがWebに割かれる。あなたが電通の経営者なら、その300万円にテレビCMと同じ人員を割くだろうか? 割くわけがない。プロフェッショナルを下請けから出向させて、あとはよろしく! が関の山だろう。出世も見えないまま降ってくる大量の処理作業、明らかにテンションの低いクライアント。社員にとって不正も働きたくなる土壌がそこにはある。

 

だからトヨタの指摘があったと聞いたとき、私は驚かされた。トヨタはどんだけWebへ期待してるんだよと。もしかして上層部から売りが達していない理由を詰められて、咄嗟に「広告の実施状況を今一度確認します」と口走ったから今回の不正が判明したんじゃないの、と。 

結果として実際に不正があったので、電通が今回は売上未達の非を全面的に負うことになるだろう。私がトヨタのマーケターなら胸をなでおろすところだ。

 

だが、もっとフェアに話せばクライアントがWebを知らな過ぎた、あるいは予算を削りすぎてきた面も多いにあるのではないか。「ホームページ作ってバナー広告を貼れば何とかなる。あとはこう……なんか知らないけどSEOだっけ?あれやっといて」くらいの認識しかない企業が多すぎるんじゃないのか。

 

不正は不正で、現時点でもすでに社員は方々のクライアントとケジメをつけているところだろう。いくら予算不足の部門だろうが、慰謝料も社会的制裁も大いに受けるべきだ。だがその一方で、依頼主としての無学から罪悪感に胸を締め付けられた次第である。