トイアンナのぐだぐだ

まじめにふまじめ

セクハラで女性が加害者になる日

先日、男性の5人に1人が「就活セクハラ」を受けていることが明らかになった。

セクハラはこれまで「男性が女性に行うもの」という印象が広まっていたため、この数字に驚かされた方も多いだろう。

 

news.yahoo.co.jp

 

しかし、男性自身も「これはセクハラだ」という認識が薄いまま、これまでもセクハラは横行してきた。代表的には、こんな例が挙がる。

 

・風俗通いの強制

「さあ3軒目は風俗いくぞぉ~! あ、お前帰るの? そこは空気読めよ」

 

・ゲイとして辱める

「あいつさあ、なんかなよなよしてるし、実はゲイなんじゃない?」

 

・童貞いじり

「〇〇君って、彼女いるの? あ、ずっといないの? マジか、てことは童貞?」

 

・顔をけなす

「〇〇君はいいよね、イケメンだからさあ……人生楽してきたんでしょ」

 

・性的関係の強要

「やだ、どうしても帰るならキスして帰って。じゃなきゃタクシーおろさない」

 

これらはいずれも、私が男性から相談されたことのある被害だ。そして、「風俗通いの強制」を除くと加害者は男女のいずれもいた。女性も昔から、セクハラの加害者だったのだ。

 

見えてこなかった女性のセクハラ加害

ではなぜ、女性のセクハラ加害がハイライトされてこなかったのか。それはセクハラが「権力がある側からない側に行われがち」だからである。女性の管理職比率は2017年で11.5%。しかもこの数字には部下なしの名ばかり管理職も含まれる。権力の場に立たされないからこそ、加害者になることも少なかったのである。

 

さらに、男性の被害は矮小化されやすい。そもそもなぜ私が男性の性被害の相談をうかがうかというと、「男性同士で相談するとバカにされやすい」という背景があるからだ。実際に相談してくれた男性はこう言った。

 

―上司からずっとセクハラを受けてるって、仲のいい先輩に相談したんですよ。そしたら先輩に「マジ? お前ラッキーじゃん? 今彼女いないんだろ? その上司と付き合っちまえよ」と言われてしまって。あの時は会社へ行くだけで吐き気がするようになって、全然眠れなかったんですよ。その状況で茶化されたのがすっげえショックでした。

 

この男性は1年悩んだが、女性上司から体の関係を求め続けられることに嫌気がさして退職した。社内では誰にも相談できなかったという。

 

自分でも身構えてしまってましたね。「男がそんなことを言うなんて恥ずかしい」って。上司にチクったのがバレたらどうしよう、とも思いました。泣き上戸な人なんで、たぶん社内で泣いちゃったりするだろうなと。そしたら悪者になるのは絶対に俺だなって。

 

―その人は仕事もめちゃくちゃできて、担当した部門の成績が3年連続で二ケタ成長してたんです。そんなときにセクハラでその上司をチームから外しちゃったら、売上絶対下がるし、なんてことしてくれたんだ、ってムードになるのも分かってましたし……。

 

セクハラの加害者はえてしてビジネス上は有能である。だからこそ被害側は告発すると「セクハラごときで重要なポジションの人間を外しやがって」と他の同僚に思われないか……と不安を抱いてしまう。

就活セクハラでも考えることは同じだろう。「たかが学生ごときの自分が、社員さんを、ひいては会社を傷つけることを言っていいわけがない。後輩の採用にも迷惑がかかる」と被害者は思い、泣き寝入りする。

 

女性からの加害だった場合、被害男性は上記に加えて「女に被害に遭わされるなんて恥ずかしい」「痴情のもつれをセクハラと言い換えただけではないか」「据え膳食わぬは男の恥」といった、男らしさのイメージに振り回され、泣き寝入りを選びやすい。だからこれまで、女性の加害は可視化されなかった。

 

女性にも希薄な加害者意識

また、女性当事者にも加害者意識は少ない。これまで「セクハラは女性が受けるもの」と教え込まれてきたからだ。そして、ここで謝罪したい。私もかつて童貞を揶揄する文章を書いてしまったことがある。

 

「童貞が自分が童貞であることをネタにしているのだから、童貞はいじっていいネタなのだ」と思い切り勘違いしていたのだ。しかし「女性が自分がいい年して処女なのをネタにしているから、他人がその女性の処女ネタをいじっていい」わけではないのと同様に、童貞いじりをしていいわけではなかった。私が間違っていた。

 

それから心の中で反省するだけでなく、具体的にできることを考えた。職業がライターなのだから、書くべきだろう。そう考えて「童貞をいじるのはセクハラ」「童貞が同性異性問わず、誰かからいじられる社会をやめていこう」という文章を書いている。

 

これまでの過ちは、私が不勉強だっただけで言い訳の余地はない。だが、これから政府の方針通り女性管理職が30%まで増やすなら、女性がセクハラの加害者になることも増えるだろう。セクハラは性差で起きるものではなく、権力を握った人間の一部が超えちゃいけないラインを見誤って起こすものだからだ。

 

性差を超えた「セクハラ教育」の普及が必要

男性が保健体育の生理の授業では他の講義を受けさせられたように、女性はこれまで「セクハラ」の授業から遠ざけられてきた。女性は被害にあったシチュエーションだけの対応を知らされ、「危害を加えない」方法は教わってこなかった。

 

だからこそ、これからがチャンスなのだ。男女ともに、被害にあったら声を上げていい。それが有能な人でもだ。社内で有能だからこそ、「セクハラをしても許されるだろう」とそいつは考えている。訴えていい。その結果セクハラをしない・有能な社員に変わるチャンスはいくらでもあるのだから。

 

そして、「自分が加害者にも、被害者にもなるかもしれない」という意識が男女ともに広まれば、世の中はもっと楽になるだろう。男性が痴漢に遭うこともあるし、女性が男性をレイプすることもある。男女問わず「こんなことがあって、つらかった」という相談が「つらかったね」と受け止めてもらえる社会まで、あと少しだ。

 

※このブログを書いたのは2019年5月30日の夜なので、続報があってニュース記事の中身がひっくり返っていたら申し訳ございません

 

すごく久しぶりにブログを書いたので、こんな人間ですよって自己紹介代わりに書籍貼っておきます。

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