就活したとき「グローバル人材」という言葉が流行り、私も憧れた。就活時に自分が考えていたのはこんな像だ。
- 拠点が2カ国以上にある
- 各国をフットワーク軽く移動
- 日本以外で通用するスキルがある
- 海外企業や顧客相手に商売をする
- 2か国語以上を駆使する
安直だけど、こんなもんだろう。
そして先日、自宅でパカパカとキーボードを叩きながら思った。
「あれ? 私、あのとき憧れたグローバル人材になってね?」と。
今の私は、フリーランサー2年目。イギリスと日本に家がある。顧客は日本とイギリスの法人。年に10回くらい海外移動がある。一応、ギリギリだけど自分の憧れた定義には当てはまってそうだ。そこで感じた現実を語る。私が住んでいるイギリスとの比較が多いのはあらかじめご容赦を。
日本マジパねえっす
海外在住者の多くは1度右翼(というかネトウヨ)になる。美味しいご飯やウォシュレット、にこやかなサービスへのホームシックからだ。だが日本がすごいのはそこじゃない。ご飯を求めるなら世界最高峰はパリだし、イタリアやスペインの大らかなサービス精神は最高だ。どの国だって住めば差別や偏見が待ち受けているけれど、それは日本に移住する外国人も同じだろう。
日本マジパねえのは税額だ。まずはこの表を見てほしい。
これは東京とロンドンで年収1,000万円をフリーランスとして稼いだ場合、どれくらいの手取り差がでるかを概算したものである。ネット上の簡易計算機を使ったのでブレはあるだろうが、にしてもイギリスの税額おかしくない!?!? かたや東京なら手取り700万円が、ロンドンだと400万円台になるってどないやねん!
一応ロンドンのフォローもしておくと、福祉国家としてホームレスには住宅が与えられる。医療費も学校もタダだ。だが無料の医者は予約待ち2週間もザラで、普通に治したければ高い私立病院に行くしかない。無料学校は優良校に親が殺到。公立なのに受験倍率5倍以上という異常事態になっている。
グローバルに活躍した結果手取りが250万円減るなら、私は日本でタックスをヘイブンしたい。そう思わされた1年、マジで辛かったよ……。
といってもここはまだイギリス。この世には北欧という税額界のラスボスがいる。海外移住きょわい!
就活の大変さはイギリスの方が上かもしれない
新卒一括が悪に見える人からすれば、通年採用のヨーロッパは楽に見えるかもしれない。だが就活はイギリスの方が大変である。新卒がバリューとみなされない世界では、コネと経験がものをいうからだ。
日本でもフリーランサーは元取引先の下請けなど、社会人時代に培ったコネでキャリアを始めると楽だ。「雑誌社で勤務してからライター業務を受注する」のと「SOHO募集サイトで応募する」のではギャラが10倍変わるだろう。
イギリスでもそれは同じだ。マーケティング案件はまずイギリス勤務の友人からお話をいただき、そこからお取引先を広げていただいた。それでもイギリスは職歴や学歴を重視するのでまだ一般応募もやりやすいが、イタリアやスペインではさらなるコネ社会だと現地人から聞く。人に生かされる社会は、つながりなき人間には冷たいのだ。
従って現地人とのつながりを持たない日本人が現地就労を狙うと、とんでもない年収で働かされる例が後を絶たない。
ひどいケースではある女性が年278万円で現地法人へ雇用されていた。ただでさえ物価が東京の1.5倍あるロンドン。上述の税額を課されると、仕送りなしで生活するのは厳しい。
一番楽なのは駐在員(expat)として海外支社へ赴任するケースだが、このやり方では日本人同士で固まってしまい、いつまでたってもグローバル感が得られない。スキル云々より、働いている本人がグローバル人材を目指していた場合「何のためにここにいるんだろう」と感じやすい。
会社員の場合「グローバルに働いている感」と「搾取されない給与水準」を考えると、ベストなのは現地で認められる資格や学位を得てからの就活になる。ただし、日本円換算でもまっとうな金額を稼ぎたいなら、まず留学を年単位でせねばならず、ハードだ。
海外へ移住するより日本でグローバルになるのはどう?
海外就労は大変な勉強になる。一方で、いらない苦労も増える。私は英語に困らないという最大のアドバンテージがあったにも関わらず大変だった。ざっとこの1年を振り返ってみよう。
- 海外移住したてで隙ありと思われ宗教に勧誘されまくる
- 節税対策でペーパーワークが大量発生。取引先にご迷惑をかけてしまった
- 日本人同士だから訴えられないだろうと舐められロンドン都心部にある日系居酒屋の大将から性犯罪の被害に遭う
- 上記の被害届や訴訟手続き
- 私立病院の医療費が高くて笑う。風邪の診察だけで4万円
- 税理士のコストも高い。自分で帳簿つけても年30万円
これらは全て日本で仕事していれば遭遇せずに済んだ「大変なこと」である。語学は別に日本でも磨ける。海外企業との取引もSkypeと英語ウェブサイト、そして友人のコネがあれば始められる。フリーランスだから大変だけれども、会社員なら転職しだいで海外出張たっぷりのグローバルな職場があるだろう。
ジェンダー的な差別が少なかったり移民が多くて心強かったりと、ロンドンは極めて住みよい街だ。テロで不安に思われるかもしれないが、日常の治安はすこぶる良い。仕事も比較的ちゃんとやる方だし、英語だから語学のハードルも低い。日本食がブームで、普通のスーパーで味噌やうどんも手に入る。それを踏まえてもグローバル人材になるよりは、グローバル案件を東京でやる方が楽でいいんじゃないか、という話だ。
★税金は下記ウェブサイトで試算しました