教師さえTOEIC700点に届かない日本で、カタカナ英語から脱却する方法
日本人は英語ができないことを、疑う者は少ないだろう。
その理由を簡単に調べてみたところ歴史的背景から言語学上の違い、果ては脳科学まで言い訳がズラリと並んでいる。
だが海外で語学学校を経営している方にお話を伺うと、全く違う回答が出てきた。日本では「先生も英語ができないから、生徒も英語ができるわけない」というのだ。
確かに少し前、高校の英語教員でもTOEICスコアが620点しかないと話題になった。データソースをもう少しマトモな国の調査に拠っても中学教員で730点超えは3割を切る。あれだけ単語や文法の授業をみっちりやる教育を受けているにも関わらず、なぜ教師のスコアが惨憺たる結果になってしまうのか? とさらに経営者へ質問してみたところ「発音ができないんです。発音ができなければ、TOEICのスコアも上がらないので」と即答された。
発音ができなければ、TOEICのリスニングスコアが取れない
「発音ができないとTOEICでスコア上がらない」と言われても、文法とリスニングしかないTOEICに何の関連があるのか? 実は、発音ができないとリスニングの能力が著しく下がるらしい。音声上理解できていないと、聞き分けられないのである。
最近トイアンナとして新たに参加してくれたパートナーが実際に語学学校サウスピークの発音矯正訓練を受けた。日本人はよく LとR や VとB の発音が分からないと言われるが、最も聞き分けを苦手とするのがこの「Year」と「Ear」である。
この映像では交互に Year と Ear を言い分けるレッスンを受けているが、どっちがどっちか分かる人の方が少ないだろう。ということは、私たちは Year と Ear のリスニングテストがあったら、正解できないということでもある。
講師がメモで教えてくれたYear と Earの違い。イギリスに4年留学していた私も無意識に舌の動きを学んでいたため、図解されるまで舌が動いていたことにすら気付かなかった。
図:Year と Ear で異なる舌の動きを横から見た断面図
*字が汚いのは私のせいです。お許しを……。
日本の教育のままでは「お話にならない」
このテの話をすると必ず「世界中の人間が訛った英語を話してる。ゆっくり、伝わりやすい英語で話せ。発音なんか気にするな」という議論が出てくる。
というのも、「英語教育で何が大事か」というテーマは、現在下図のような対立構造になっているからだ。
実のところ、私も外資で勤めていた人間のためネイティブっぽく振舞うことより「ゆっくり、要点をまとめて」話す英語を好む。日本語もよく聞き取れないポンコツ耳の持ち主だから、英語でスピーディに話されると辛くて泣きそうになる。
だが、日本人の発音は「訛り」というレベルではなくリスニングにも支障が出る上、話しても通じないから問題なのである。
例えば日本人がよく話す英語は、こんな感じだ。
「2016の耳に、外交官は候補者から勃起するはずだ」
「海が呼んでるから、行かなきゃ」
なんのこっちゃ? と思った方は実際の英文と対訳を見ていただきたい。
In year 2016, a diplomat should be elected from the candidates.
(2016年に、外交官は候補者から選出されるはずだ)
I have to go because she is calling me.
(彼女が呼んでいるから、行かなきゃ)
これらは、下記の発音を「カタカナ」で統一するから起きる問題である。
○ year(年) と ear(耳)
○ elected(選出される)とerected(勃起する)
○ she(彼女) と sea(海)
1文に発音・リスニングの誤解が1つくらいなら、何とか文脈で推し量ることができる。だがこのように「最低限抑えたい音」を聞き分けられなければ、笑えないレベルでコミュニケーションが崩壊する。
日本語の例だと「びょういん」と「びよういん」の例が分かりやすい。この2つは、英語を母語とする人が聞き分けづらい日本語の代表である。
もし知人から電話で「大変だ!病院へ行かなきゃ」と言われたら心配するだろう。だが代わりに「大変だ!美容院へ行かなきゃ!」と言われたら「そんなことで何で電話してきたの?」と思うだろう。
「日本語訛り」と「発音ができない」は別問題
実際にイギリスで生活していたときも「カタカナでしか会話できない人」と「日本語訛りで英語を話す人」の間には厳密な差があった。前者にまともな就職はできないが、後者は就職できる。
外資系企業出身者に多い「ゆっくり・シンプルに話せばいい、発音は気にするな」と語る英語学習論は、最低限の誤解を生まない発音技術を押さえた上での議論だろう。現実には、海外の和食屋で英語でオーダーを受けることもままならない日本人がたくさんいる。お話にならないから、仕事にならない。仕事にならないから、就職できないのだ。
ただ、無理してネイティブの発音をする必要はないし、ネイティブの振る舞いなんていらない。はっきり言って日本人が「Hey what ya doin'~??」なんてハグしてきたらキモい。日本語訛りがあっても要点をまとめてゆっくり話せばいい。
だが、訛り以前の基礎的な発音ができなければ「お話にならない」。英語は「他人と通じ合うための道具」だ。だから相手と「お話になる」ことが何よりも優先されるべきなのである。「お話になる」ためには、ゆっくり要点をまとめて話すことと、最低限の発音ができることはどちらも必須科目。であるにも関わらず、日本では発音が極端に蔑ろにされているのが現状だ。
日本人は文法警察かというくらいスペルや文法に細かい。就活でTOEICに向けて挑む真面目さもある。もしその厳密さを発音に適用できるのなら、日本人からどうでもいい英語コンプレックスなんて、吹き飛ぶはずだ。
追記:具体的な学習法について
いわゆる「ネイティブ」として発音を学べる年齢を超えた成人になってから学習するには、下記3つの方法が現在あるようだ。
① 発声学を学んだ教師に教わる
今回、発音矯正レッスンを体験させてもらったサウスピークの代表による本。競合のレアジョブもそうだが、フィリピン人に英語を教わるのはコスパがめちゃくちゃいい。
② 舌の動きを見られる携帯アプリなどで学習
今調べたところ、AUTO SPEAKINGという聞いた音声を繰り返して発音を学ぶアプリを発見。できれば口内の動きも見られるアプリがあるといいんだけど……どなたか知ってたらコメント欄にでもご教示いただければ幸い。自分の発音が通用するかテストしたいなら、英語版のsiriに話しかけると一番安上がりかも。
③ フォニックスに関する本で学習
音声を具体的に学ぶ「フォニックス」という技術を学ぶ本。手軽な反面、自分の音声をチェックする機能はないのであくまで「参考図書」ともいえそう。
CDBフォニックス<発音>トレーニングBOOK (アスカカルチャー)
- 作者: ジュミック今井
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④ 対面スピーキングありきのテストを受ける
TOEICやTOEFLもスピーキングテストが導入されているが、いずれも対面ではなくコンピュータへ向かって話しかける形式だ。上級者には何ら問題ないが、初心者は表情が読める対面でのスピーキングが発音向上に望ましい。
その点において、対面スピーキングテストが課されるIELTSは適切な試験だと思われる。IETLSはヨーロッパで広く認められている英語試験で、大学によってはTOEFL/TOEICを認めず、英語力証明にIELTSまたはケンブリッジ英検のみを認定しているところもある。公式サイトでニーズと英語のレベルに合った準備資料を探してほしい。
IELTSの面白いところはオンラインで無料授業が公式から受けられること。授業も英語なので初心者にはしんどいかもしれないが、何十万も払って英会話教室へ行くよりもコスパがいいのは間違いない。(なにせ、コストがゼロなので)
いずれの方法もメリット・デメリットがあるが、先述の語学学校によるとみっちりやれば10日で基礎発音は訓練できるらしいので、英語学習の中でも達成感を手に入れやすい分野ともいえるだろう。